秘書に対する1億円裏献金の自供
政界きっての実力者との対決において、検察は完全に劣勢に立たされていた。そんな折、飛び出したのが、09年10月の水谷功の裏献金証言だ。東京地検特捜部が三重刑務所で服役していた水谷本人を取り調べ、小沢の秘書に対する1億円の裏献金を自供した。これにより、それまでの旗色は一変する。地検情報を嗅ぎつけた共同通信と日本共産党の機関紙『赤旗』によるスクープにより、一挙に疑惑の火が燃えあがったのである。
しかも水谷による献金目的は、「小沢ダム」と呼ばれる岩手県の胆沢ダムの工事受注という。それが、さらに火に油を注ぐ格好となり、小沢一郎の「政治とカネ」問題における最大の焦点と見なされるようになったのである。
問題の1億円の献金は、まだ水谷建設の会長だった頃の水谷功が、社長だった川村尚らに命じた行為だとされる。まさに水谷功本人が絶頂期を迎えていた時期のことだ。1億円は04年10月と05年4月の2度に分け、5000万円ずつ運んだという。1回目の献金を受け取ったのが、当時小沢事務所で事務担当秘書を務めていた代議士の石川知裕。2度目が政策秘書の大久保だったという。2回目は前述した水谷の還暦祝いの1カ月後の出来事である。
公共工事の受注を狙った建設業者の1億円裏金工作─。裏金の使い途として、不動産取引まで取沙汰されてきた。特捜部は実際に現金を渡した水谷建設社長の川村や受け取った側である小沢の秘書たちをはじめ、裏金づくりにかかわった業者や出金した財務担当者にいたるまで、関係者を虱潰しに取り調べてきた。そうして捜査の過程で、水谷建設と小沢事務所の蜜月ぶりが明らかになっていく。水谷建設社長の川村は、水谷に命じられるまま、小沢事務所の大久保たちを向島の料亭で接待漬けにしていた。
川村が使っていた店は、東京・向島の「花仙」という料亭だった。店にいた2人のコンパニオンと芸者が、彼らの接待役に選ばれた。1人は、川村自身の元愛人でもある。店のコンパニオンの1人に取材した。
愛人の面倒まで見た水谷
「川村社長と初めてお会いしたのは、03年の夏でした。初めは水谷会長といっしょにお見えになられたのを覚えています。会長が主役だと思っていたので、私が会長のそばに座ろうとすると、『お前は川村の隣に行け』と命じられましてね」
女優の山口いづみに似た細面の美人だ。水谷功がたまたま「花仙」を訪れたときに見初めた女性である。水谷本人は無類の艶福家として知られる。男子たるもの愛人の1人や2人いなければ、仕事ができない、というのが持論である。そして、姪婿の川村を常務、社長と引き立て、愛人の面倒までを見ようとした。社長になった川村に「東京妻としてどうか」と薦めたのが、「花仙」に勤めていたコンパニオンだ。彼女が当時の模様を思い起こす。