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「女ふたり」で暮らすことは「より良く生きるための最も良い方法のひとつ」である

はらだ有彩が『女ふたり、暮らしています。』(キム・ハナ、ファン・ソヌ 著)を読む

2021/05/18
『女ふたり、暮らしています。』(キム・ハナ、ファン・ソヌ 著/清水知佐子 訳)CCCメディアハウス

 私はこの本に慌てて飛びついた。ちょうど前日にルームメイトとけんかしたからだ。『女ふたり、暮らしています。』のキム・ハナ氏とファン・ソヌ氏のように、私も女ともだちと長年ルームシェアをしている。きっとこの本には、「女ふたり」が安心して支え合い、リラックスしてエンパワメントし合いながら、楽しく穏やかに「暮らして」いる様子が綴られているに違いない!

「女ふたり」で暮らすことは、社会の不均衡な構造に抵抗しながらより良く生きるための、最も良い方法のひとつである。四十代を目前にしたキム・ハナ氏とファン・ソヌ氏は、ひとりでいることのつらさを避ける方法が結婚制度と夫の家族と家父長制しかないことに疑問を感じ、「情緒的体温の維持」のため、ローンを組んで購入したソウルのマンションで一緒に暮らし始める。嫁は夫の家族に尽くして当然という考えが根強い韓国において(そして日本でも)、女性の友人と暮らすのは気楽だ。義両親は娘の友達を尊重し、親切にしてくれる。娘と仲良くしてくれてありがとうとさえ言ってもらえる。義務は発生せず、好意だけが生まれる(しかしなぜ「嫁」は目の前の好意をただ受け取ることさえできないのだろう?)。

 それにハナ氏とソヌ氏は大人だから、うまく共同生活を維持する方法だって心得ている。自分と違うからといって変な目で見たり、評価したりせず、尊重して礼儀を尽くすこと。

 にもかかわらず、ふたりは度々けんかを繰り返す。原因は、ものを所有することについて、部屋を片づけるデッドラインについて、家での過ごし方について、お互いへの気遣いについて。

 そういえば、数年前にTwitterで「夜でも安心して散歩できるような、女性だけが住む街があれば…」というpostに「どうせ女が集まれば、いがみ合うに決まっている」という攻撃が大量に寄せられたことがあった。旧来のルールから脱却して自由に生きている「女ふたり」がけんかすれば、その自由が我慢ならない人たちは喜ぶかもしれない。しかし考えてみれば、けんかするのは当然である。四十年で培われてきた二人のキャラクターはとても似ていて、一方で全く異なっているのだから。

「女ふたり」の暮らしは、別に、楽園ではない。楽しく穏やかなだけでもない。キム・ハナ氏はふたりの関係を、「原子が結合して分子になるようだ」という。さしずめ「W2C4」(woman×2/cat×4)だと。安心して支え合い、リラックスしてエンパワメントし合い、誰にも邪魔されず、女であるだけで邪魔な意味を背負わされない部屋の中で、気が済むまでけんかをしたりしなかったりして、毎日を構築していく。そんな「女ふたり」が確かにいるという事実が、この世界のどこかで暮らしているたくさんの「女ふたり」を、安心してけんかさせてくれる。

キム・ハナ/1976年、韓国・釜山生まれ。コピーライター、文筆家、ラジオパーソナリティなど、多方面で活躍している。

ファン・ソヌ/1977年、韓国・釜山生まれ。長年、ファッション誌『W Korea』の編集に携わり、現在はフリーランスとして活動。
 

はらだありさ/テキスト、テキスタイル、イラストレーションを手掛ける“テキストレーター”。近著に『女ともだち』(大和書房)。

女ふたり、暮らしています。

キム・ハナ ,ファン・ソヌ ,清水知佐子

CCCメディアハウス

2021年2月27日 発売

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