元の悪い環境に戻った結果、心理状態も元に戻ることがある
具体的にはまず、少年少女たちに知能検査を行ったり、絵を描かせてその子が抱える問題を心理学的に追求します。また、ある程度までプログラムが進んだと判断されると、自身が起こしてしまった事件の被害者の話を聞かせます。被害者はその後どうなったのか、家族はどんな立場にあるのかといった話ですね。また加害者である自分と、被害者の立場を変えて話をしたり、自分の親の立場になって、自分に手紙を書くなどのプログラムもあります。こうして相手の立場に立って、物事を理解させることで、自分が犯してしまった「罪」の重さを「自覚」するよう促します。自分の罪の重さを自覚することができれば、もう同じ過ちを繰り返すことはない。いわば、これらのプログラムは病院と一緒。入院し、悪いところを見つけて、治療する。医療少年院には、社会的な病院としての役割があるのです。
ほとんどの少年少女はこの“病院”に入院することで、相当程度矯正はできていると思います。ただし、問題は出所後にあります。更生施設を出るときには良い心理状態であっても、結局、社会に馴染めず、元いた悪い環境に戻ってしまった結果、心理状態も元に戻ってしまうということが多く見られるからです。これを“巻き戻し”といいます。
親は“巻き戻し”が起きないように十分に気を配る必要があった
自覚のある少年少女ならば、「あ、自分は今巻き戻しの状態になりつつあるな」と初期段階で気づき、例えば、両親の元を離れ、支援者の指導を受けながら独り暮らしを始めるなど、自ら環境を変えていく子達もいます。しかし、今回の岡庭容疑者は、医療少年院出所後に、一時はグループホームで暮らしたものの、1年も経たないうちに両親の元に戻り、再び犯罪に手を染めてしまった。まさに、“巻き戻し”が起きてしまった可能性があります。
岡庭容疑者の場合、本人としては居心地が良く、前と同じことをやりやすい環境があると考え、親の元に帰ったのかもしれません。しかし、親としても“巻き戻し”が起きないように十分に気を配る必要があったと言わざるを得ません。今回のケースでは、実家に戻れば再び好きなことができるかもしれないと考えた――岡庭容疑者が親を見透かしていたということも十分に考えられます。
岡庭容疑者については憶測による部分もあり、一概に言えることではありませんが、いずれにせよ、間違いなく言えるのは、問題は少年院にあるのではなく、出所後にあるということです。どうやって“巻き戻し”を防いでいくか。法制度の改正も含めて、我々社会全体で早急に取り組んでいくべき課題です。