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無駄を省いて効率的に

 プロゲーマーが大会で結果を残すほどの実力を付けるためには、タイトルを1本に絞って練習するのが一般的だ。2020年現在でこそ競技タイトルを『ストリートファイターⅤ』だけに絞り活躍しているときどだが、当時はさまざまな格闘ゲームを同時並行でプレイし、数多くの大会で結果を残すマルチプレイヤーとして名をはせていた。これは珍しいことであり、無駄を省いて効率的に複数のゲームの練習に時間を使えたからこそ、得られた実績だった。

「あの頃は、攻略本に書いてある内容を全部ちゃんと覚えて、『どうすればキャラクターの性能を最大限引き出せるのか』に頭を使っていました。他のプレイヤーで僕以上に豪鬼(ときどが使用するキャラクター)を使いこなせている人は、ほとんどいませんでしたから。キャラを上手く使えていれば、負けることはほとんどなかった」

 受験勉強も、プレイスタイルも、とことん己自身と向き合い磨き上げていったことにより「世界大会で優勝」と「東大生」という華やかな肩書きを得た。工学部4年生の時に配属された研究室では、国際学会で“液体の粘性に関する研究”について発表を行い、賞をもらうほどの成果を挙げた。

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大学院で直面した問題

 だが、ふとしたことでときどは人生の岐路に立たされる。大学院に進学した2009年、自分の希望したそれまでの研究室とは別の、全く興味がない研究室に配属させられてしまった。

 これまで「やりたいこと」ばかりやってきた彼だったが、直面した問題に対してどうすれば良いのか、教授や先輩に相談できず、思い悩む。

「なんというか、この頃までは『自分の世界』と『それ以外の世界』という風にしか捉えていなかったですね。

 世の中ってものは、本当はそういうものじゃなくて、たくさんの人たちがいて、そのなかでお互いに支えたり支えられたりする。自分は支えられることがほとんどなんですけど、そういうことが昔は全然分かっていなくて、自分の世界ばっかり見ていました。興味があるところだけ気にして、その範疇の人たちとはコミュニケーションを取ったりするけど、それ以外の人に対してはあまり上手くやれなかった。だから、大学院に進学して、自分ひとりではどうにもならなくなった時に何もできなくて、それでも自分ひとりでなんとかしてしまおうとして。(大学院を)辞める以外に選択肢が見えなかった」

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