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麻布→東大のエリートが大学院を中退してプロゲーマーになった理由とは…ときどが明かす“思い詰め続けた日々”

『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか トッププロゲーマーの「賢くなる力」』より#1

2021/06/02

 彼ならではのルーティンとして、大一番の直前に控室で激しく足踏みをして心拍数を高める「マーダーダッシュ」や、試合直前にモニターと顔との距離を持参したメジャーで測る「マーダーメジャー」がファンの間で知られている。きっとときどは、大舞台でプレッシャーを感じなくなったのではない。プレッシャーと上手く付き合っていく、自分だけの「対処法」を編み出したのだ。

 だが、高校生のときどはそこまで成熟しておらず、「ゲームと違って、受験は一生を左右する」というプレッシャーに飲まれていった。

ゲームをしてたから東大に受かった

 進学校ゆえ、多くの友人が自分を置いて現役で東大へと進んでいった。強烈な挫折感を抱きながら始まった浪人生活だったが、そこで彼は「強靭なメンタル」の礎を築いた。

「『格ゲー(格闘ゲーム)の大会に比べれば、受験なんてたいしたことないんじゃないか』と考えるようにしていきました。受験には模擬試験があって、合格ラインに達しているかどうかを教えてくれたり、克服すべき分野をアドバイスしてくれたりする。だけど、格ゲーはそんなことは誰もしてくれないんです。それに、当時の格ゲーは『1先(1試合先取制)』が多かった。それに比べれば、本番さながらの練習が何度もできる受験はずいぶん楽に思えました。

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 共通項もあります。僕には東大しか見えていなかったから、受験勉強は東大対策に絞る。格ゲーだって、倒したい相手がいたら、その相手の対策だけをやって、ほかの無駄は徹底的に省く。そして徹底的な反復練習。世界一になれた『ゲームで培った考え方』に自信があったから、その考えを受験に応用して、勉強を頑張れました。きっと僕は『ゲームをしていたから東大に受かった』のだと思います。朝10時から19時まできっちり勉強して、それから23時まできっちりゲーセンでゲームもやる。さすがにそれ以上は残りません。帰ると決めた時間には必ず帰ってました」

「無駄を省いて反復」。そうして操作精度を高めることで自身のプレイスタイルを確立していった。それに象徴されるのが、彼のプレイヤーとしての名前だ。「ときど」とは、かつて彼が必勝法として何度も何度も繰り返していたコンボ(キャラが、跳んで、キックして、「どうしたぁ!」と叫びながら技を放つ)が目に焼き付いてしまった周囲の人に付けられたものだという。

 大学に入学した2005年からも、受験期には確立していたこのプレイスタイルは変わらなかった。“無駄のない必勝パターン”をどんな相手にも押し付ける。自分のコマンド入力さえ、自分がキャラを動かすタイミングさえ、自分が撃つ技の選択さえ間違えなければ、相手に勝てる─とことん「自分」と向き合い、徹底的に無機質に立ち振る舞うその冷徹な姿は「アイスエイジ(氷河期)スタイル」と呼ばれた。

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