麻布中学校・高等学校を経て、東京大学入学……。学業でエリートコースを歩んできた男は“ゲーマー”としても華々しい活躍を続けている。彼の名はときど。日本で2人目の格闘ゲームのプロとなり、2017年にはラスベガスで開催された世界最大の格闘ゲーム大会「Evo」で優勝。誰もが認める、一流のプロゲーマーだ。そんな、ときど氏が語る「ゲーム」と「勉強」の共通点、そしてエリート街道を外れてプロゲーマーとしての道を選んだ理由とは……。
自身もプロゲーマーとして活動を続けるすいのこ氏の著書『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのかトッププロゲーマーの「賢くなる力」』(小学館新書)の一部を抜粋し、ときど氏の考えを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
※取材は2020年7月時点
◆◆◆
ゲームが「東大卒プロ」のコミュ力を育てた
ときどの人生は、一見すると華やかだ。
東大生や医学部生を多数輩出する名門・麻布高校(東京)に通っていた頃には、世界最大の格闘ゲーム大会である「Evo」(2002年)や日本有数の大会である「闘劇」(03年)で優勝。学業では「麻布から東大」という誰もがうらやむエリートコースに乗った。
大学時代から、アマチュアではあるものの世界的プレイヤーとして活動する傍ら、工学部4年生の時の国際学会での発表が賞を取るなど、“文武両道”を体現していた。その後進学した東京大学大学院を中退してプロゲーマーとなってからは、2017年にも「Evo」で優勝し世界一に輝くなどの成績を収めている。近年では、その経歴が、雑誌やテレビで特集される機会も多い。
そのイメージとは裏腹に、ときどは自分自身をこう評する。
「不器用ですよ。だって、プロゲーマーになるために東大の大学院を辞めちゃったくらいですから。プロとして活動を始めた頃には『コミュニケーション能力』が今よりもずいぶん低かったんじゃないかな」
新型コロナウイルスによる影響でのリモート取材にもかかわらず、胸元にスポンサーである製薬会社の商品名「OXY」の文字がプリントされた青いユニフォームを着ている。対面でのインタビューなら写真撮影があるが、今回はそれもなく、自宅のパソコン前に座っているはず。なのに、なぜ“正装”なのか……それは、この格好がときどにとっての「勝負服」だからだ。スポーツ誌『Number』のウェブ版にインタビューが掲載されるなど、彼のゲームに向かう姿勢がアスリートとして認知されつつあるのもうなずける。
プロ入りするうえでの「転換期」は、大学院時代だ。