ゲームの利用時間を制限する異例の条例が香川県で施行されて1年。教育委員会による調査では、「長時間利用は減った一方、依存傾向の割合が増加した」という結果が出た。果たしてゲームの使用を制限する条例に期待通りの効果はあったのか。そもそも、条例に科学的な根拠はあったのだろうか。
ここでは、ウェルプレイド・ライゼストに所属し、プロゲーマーとして活躍するすいのこ氏の著書『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのかトッププロゲーマーの「賢くなる力」』(小学館新書)の一部を抜粋。医師へのインタビューを通じて見えてきた、“ゲーム”と“健康”にまつわる通説の誤解について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
※取材は2020年7月時点
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香川県「ゲーム条例」の根拠って何だ?
ゲームを通じた経験で多くを学び、人生を豊かにしてきたトッププロたちの話をここまで紹介してきた。一方で、「ゲームをプレイする危険性」も、たびたび指摘されている。
話題になっているのが、2020年3月に香川県議会で可決された「ネット・ゲーム依存症対策条例」だ。これは、18歳未満のゲームプレイ時間について、その保護者に、
「平日は1日60分、休日は90分まで」
というルールを守らせる努力義務を課す内容で、個人がゲームをプレイする時間の目安を規定した、全国初の条例だ。4月1日から施行されたことは新聞やテレビで取り上げられた。
そう規定する理由として、条例本文にはおおまかに以下のふたつが挙げられている。
(1)プレイ時間が長くなるほど、勉強時間が確保できず成績が下がったり、睡眠障害、視力障害など健康面に悪影響が出たりする
(2)特にオンラインゲームは依存性が高く、薬物依存のような状態に陥ることがある
条例に違反しても罰則はないが、SNSではゲーマーのみならず多くの人からブーイングが起こり、広く拡散された。
そもそも「条例で規制するたぐいの問題か?」という疑問がある。私が子供の頃、(厳格に守ってはいなかったものの)親からゲームのプレイ時間について厳しく注意されてきたことはすでに述べた通りだが、家庭のルールは、それぞれの家族が自分たちで考えて決めるものと考えるのが自然だ。
鳩山由紀夫元首相は、条例案が可決された翌日、Twitterでこう呟いた。
「我が家もかつてゲーム好きの息子に1時間までと約束させたことがあるが、基本は家庭で決めることだ」
1985年頃から「ゲームは1日1時間!」というフレーズとともに当時の子供に親しまれていた、元ハドソンの宣伝マン「高橋名人」こと高橋利幸さんも、自身のブログでこんな意見を述べていた。
「私としてはマナーやルールとしていうべきであって、国や県が条例などの法律で縛るまでのことではないかなと思っています。同時に、もし条例などにする場合は、子供からビデオゲームを取り上げることになるのですから、その他に遊べる場所などを用意しなければダメだと思います」