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「麻布生なら通訳、できるだろ?」

 ゲームを通じて大人たちと交流を深めていくなかで、周囲はときどのことを認めていった。高校に上がってから初めて参加した海外大会「Evo」で世界一に輝いた際には、こんな“かわいがり”を受けたという。

「2002年、17歳の時なんですけど、先輩プレイヤーと渡米したんですが、『お前、麻布だろ』って理由だけで通訳を頼まれたんですよ(笑)。それで、先輩と大会運営の人との会話を通訳したんですが……学校での試験勉強とか塾での勉強くらいしかしてなかったのに、意外と意思疎通ができた。楽しかったですね」

 その話を聞いて真っ先に思い浮かんだのが、2017年の「Evo」で優勝した時のインタビューだ。通訳を付けることなく、インタビュアーからの英語の問いかけに対して、自分の言葉で優勝した心境や、共に切磋琢磨した仲間について語っていた姿は、印象深く私の心に刻まれている。

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 高校時代の「通訳経験」に話を戻す。ネイティブスピーカーに対して尻込みしないのか聞くと、

「その時、向こうはゆっくり喋ってくれましたね。現地にも英語があまり得意じゃないメキシコ系などの方が住んでいるので、きっとそういった相手との会話も慣れていたんだと思います。初めてアメリカに行った時の相手がその方で良かったです。英語ができて嬉しかったことがもうひとつ。通訳をやってみて『俺、意外と英語ができるんだ』って感じて、学校とかでの勉強のモチベーションが上がりましたね。でも、英会話は自分で勉強しましたよ。自由な校風の麻布じゃ、そういうのは『勝手に自分でやれ』って感じなんで(笑)」

気づいていなかった受験へのプレッシャー

「英語の勉強が楽しい」─そう実感するようになった高校生のときどだが、2004年の受験時期に体調を崩してしまう。原因は意外にも「受験へのプレッシャー」だった。

「子供の頃から体は頑丈、病気になんて罹ったこともないのに、高校3年生になって勉強に本腰を入れたあたりで、胸が痛み動悸がした。でも、病院でMRIを撮っても異常はない。あんなにプレッシャーを感じていたという自覚はありませんでしたね。1度目の受験はそのまま引きずってしまい、結局ダメでした」

 高校生の時のときどがコントローラーを握っている映像はほとんど残っていないため想像もつかないが、現在の彼はどんな大舞台であろうと試合前には不敵な笑みを浮かべ、椅子に座って伸びをしたり指先をほぐしたりする、メンタルが強い選手という印象が強い。