上越新幹線で活躍中の2階建て電車「E4系」は、JR各社の中でも特異な存在感を持っている。ゴリラのように額の広い顔つきに愛嬌を感じるし、2階席の窓の位置は防音壁の上になるため、都市部でも眺望が良い。その「E4系」が、この秋、本当に引退する。「本当に」という理由は、予定が再三延期されたからだ。
E4系の引退が遅れた理由
最初の引退報道は2011年3月9日、毎日新聞が「新幹線MAX 5年後全廃」という記事を掲載した。当時、「MAX」という愛称がついた2階建て新幹線車両は「E1系」と「E4系」の2種類だ。このうちE1系は2012年に引退し、残るE4系も2016年に全車引退予定だった。東北新幹線向けのE5系を増備し、E2系と交代させる。そのE2系を上越新幹線に投入し、E4系を引退させるという玉突き的な配置転換が予定された。実際に2012年にはE5系の増備とE2系の上越新幹線導入が公式発表されたし、E4系の引退車両のうちトップナンバーの先頭車は新潟市の「新津鉄道資料館」に保存された。
しかしE4系は引退できなかった。遅れた理由は「東日本大震災」だ。毎日新聞が「5年後に引退」と報じた2日後の3月11日に発生し、JR東日本も大きな被害を受けた。その影響は深刻で、2011年度の決算発表において「2012年3月期 業績予想の公表見送り」「2013年3月目標の3カ年目標を取り下げ」「2018年3月期達成を目指した中長期計画の見直し」が報告された。E5系を増備するより、既存車両の修理、延命を優先させた。
次の引退告知は2017年4月だった。JR東日本の社長会見で、北陸新幹線と同型式のE7系を上越新幹線にも投入し、2020年度末までにE4系を引退させると発表した。最新型車両、グランクラスの導入によるサービスアップが営業面の目的だ。JR東日本側の事情として、車両の効率的な運用も期待できる。北陸新幹線と上越新幹線の車両を統一すれば、北陸新幹線の「あさま」「かがやき」「はくたか」として東京駅に到着した列車を、上越新幹線の「とき」「たにがわ」として折り返す、という使い回しができる。
ところが、この計画も思惑通りに行かなかった。2019年の台風19号で北陸新幹線の長野車両センターが水没し、E7系とJR西日本仕様のW7系、合わせて10編成が廃車となった。北陸新幹線の車両不足に対応するため、上越新幹線に新製投入する予定のE7系を北陸新幹線で稼働させた。上越新幹線ではE4系を再度延命して対処した。