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バス部門の2階建て「ビスタコーチ」も

 佐伯が社長に就任する頃には、大手私鉄はロマンスシートを採用した優等列車を次々に導入していた。近鉄としても看板になる車両を必要としていた。近鉄のビスタカーは大人気となり、現在は3代目「ビスタEX」が活躍中だ。この車両は1978年製と車齢40年を超えている。そろそろ世代交代の時期かもしれない。なお、2013年に誕生した観光特急「しまかぜ」も中間車のカフェ車両を2階建て構造とし「ビスタカー」の伝統を守っている。

近鉄50000系しまかぜ ©️杉山淳一

 ビスタカーの好評を受けて、1960年に近鉄はバス部門にも2階建ての「ビスタコーチ」を導入した。これが日本の2階建て路線バスの始祖となった。

「ビスタカー」は眺望重視型の2階建て電車だったけれども、この実績を応用して「座席数増加」を目的とした電車も誕生させた。修学旅行用電車「あおぞら号」こと「20100系」だ。ビスタカーは沿線の子どもたちに人気があるうえ、短編成で同時に1学年ぶんの児童、生徒が乗車できるため、引率の先生方にとっても便利だという。そして、全車両2階建て電車は世界初だった。2階建ての先駆者は近鉄である。

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国鉄、JRも2階建て車両を採用した

 次に歴史に残る2階建て車両は東海道・山陽新幹線の「100系」だ。1987年に2階建て中間車が追加され、2階はグリーン車、または食堂車。1階は普通車、カフェテリア(売店)、個室があった。国鉄は新型車両と2階建て車両の導入で、東海道・山陽新幹線の魅力を上げたかった。

2階建て新幹線100系の営業開始を祝い、東京駅で行われたテープカット(国鉄東京駅) ©️時事通信社

 その背景として、国内航空の規制緩和がある。新幹線の需要が落ち着き、今後は不人気になるおそれもあった。そこで新幹線の魅力を高めるため、100系の16両編成のうち2両を2階建て車両とした。後にJR西日本保有車両が「グランドひかり」として2階建て車両を4両に増やした。

 東北新幹線も1991年に2階建て車両が追加された。200系の後期モデルに2階建て車両が追加された。当初は1両、後に2両が連結されている。構成は100系とほぼ同じ。2階がグリーン席または食堂車、1階はカフェテリア、普通席だった。東海道新幹線、東北新幹線ともに、この頃の2階建て車両の導入目的は「2階席の眺望」にあった。

200系新幹線の2階建て車両(利府駅付近) ©️杉山淳一

 1994年、JR東日本は総2階建て新幹線車両E1系を導入する。これは「着席定員を増やすため」だ。バブル景気の影響で都内の住宅価格・家賃が上昇し、郊外から新幹線で通勤・通学する人が増えていた。200系16両編成と同じ定員1235人を、E4系は6両も少ない12両編成で実現した。省エネルギーなどコストメリットもあった。