言葉を発しようとすると、なぜだかわからないが喉が硬直する。そのまま音を出そうとすると、どうしても言葉がつっかえる。そうした「吃音」は幼児期に5~8%の割合で発症するとされており、決して珍しい障害ではない。しかし、世の中にはまだ理解されづらい一面を持っていることもあり、笑われたり、からかわれたり、理不尽に怒られることも多い。

 自身も吃音に悩んだノンフィクションライター近藤雄生氏の著書『吃音 伝えられないもどがしさ』(新潮文庫)は、当事者への取材を通じ、吃音問題に真正面から迫った一冊だ。ここでは、同書の一部を抜粋し、みんなのためのバリアフリー・バラエティー番組「バリバラ」にも出演した中村雄太さん(仮名、書籍の中では実名)の半生を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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「自由に話せたという記憶はない」中村雄太の35年

「きこえないよ! しずかにしてー」

「これ、たべていい?」

 車内の小さなモニターでアニメを見ながら、時折短く声を発するももちゃんに、中村は、「うん、ごめんね、ちょっと待ってね」「いま、あげるから」などと、優しくたしなめるように言葉を掛けながら運転する。そして、ハンドルを握って少し上を向くような動作をしながら、私の質問に答える中で、こう言った。

「じ、じつは、か、会社を、辞め……、たんです」

『バリバラ』の中で紹介されていた会社だろうか。確認すると、それは確かに番組の中で中村が順調に働いているように見えた会社のことだった。放送からまだ2カ月ほどである。番組に出たことが原因なのだろうか。

「番組が、直接、の、原因、では、ないんです。……妻の、体調がこのごろあまり、よくなくて、子どもの、世話を、自分がし、ないと、いけなく、なって。会、社の人には、家の中の、詳しい状況は、説明し、ないで、辞め、ましたが」

©iStock.com

 苦しげに、一音一音を絞り出すようにしてそう言った。

 聞けば中村が抱えている問題は吃音だけではないようだった。家族の事情など複数の大きな問題に悩んでいた。辞めた理由をすっきりと説明するのは難しそうだったが、ただ、その理由の一つとして中村はこう話した。