吃音は幼児期に5~8%の割合で発症するとされており、決して珍しい障害ではない。しかし、世の中にはまだ理解されづらい一面を持っており、こうすれば確実によくなるという方法もないため、我が子が吃音だったときに不安を感じる保護者もいるだろう。症状に悩みながら子育てをする大変さは想像に難くない。

 ここでは、自らも吃音に悩んだノンフィクションライターの近藤推生氏が、多数の関係者に取材を続け、問題に正面から向き合った著書『吃音 伝えられないもどがしさ』(新潮文庫)の一部を抜粋。息子の吃音にショックを受けた母、そして息子はどのように前向きになれたのだろう。(全2回の2回目/前編を読む)

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同級生から「なんでそういう話し方なの?」

 春樹(仮名、書籍の中では実名)の吃音を、信子が真剣に心配するようになったのは、春樹が保育園に通い出した4歳のときのことだった。3歳のころからすでに吃音は始まっていたが、入園した日を境に状況が一変した。

「保育園の初日を終えて迎えに行くと、春樹のどもり方がそれまでとは全く違っていたんです。白目をむいて口を歪ませ、何を言っているかわからないぐらいどもっていて……。いったいどうしてしまったんだろうと、私は大きなショックを受けました」

 入園から1週間ほどして、駆け込むように小児科に行くと、「吃音症、適応障害」と診断された。しかし、それがどういうものなのか、信子にはわからなかった。インターネットで調べ、吃音者の自助団体である言友会にも相談して、得られる限りの情報を得ようと試みた。関連する本にも目を通した。それでも、吃音の不思議さ、わからなさについて納得するのは容易ではなかった。春樹はもともと発語が遅かったため、吃音が出る前の3歳5カ月から言語訓練を受けていて、その先生に相談はしたものの、何か有効な手を打てるわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていった。

※写真はイメージ ©iStock.com

 春樹が小学校に入学する2014年春になると、家から遠くない名古屋市に「つばさ吃音相談室」が開設された。言語聴覚士の羽佐田竜二による吃音改善のための施設である。信子は春樹をそこに通わせることにして訓練を始めたが、小学校に入学して2週間ほど経つと学校でも症状が目立ち始めた。同級生たちも春樹の話し方が自分たちとは違うことに気がついて、こう聞いたりした。

「なんでそういう話し方なの?」

 春樹は何も言えなかった。そしてそう問われる度に傷ついた。