文春オンライン

「春樹くんってこんなに元気だったんだ」“言葉の詰まり”に苦しむ男の子の様子が激変した“きっかけ”とは

『吃音 伝えられないもどかしさ』より#2

2021/05/29
note

 文字も文章も丁寧で、その日の様子が細かくわかるように書かれていた。その文面は日に日に長くなっていった。小さな文字が1行に2行分並び、何ページにもわたって書かれていることもあった。

©iStock.com

教員の細やかなサポートで状況は徐々に好転

 救いだったのは、担任の教員が信子の言葉を真摯に読み、力になろうとしてくれたことである。実際に担任は、学校での春樹の様子を丁寧に見て、信子に伝えた。信子は言う。

「もっと吃音について理解したいから教えてほしいとも言ってくださいました。その気持ちがうれしくて、心の支えにもなりました」

ADVERTISEMENT

 二学期になると時々面談を申し込んで担任の教員と話をさせてもらうようになった。すると学校側も、複数の教員が連携をとりながら、春樹が学校で過ごしやすくなるようにできるだけのことをしてくれた。具体的には、友だちがからかったりしていないかに気を配り、必要に応じて春樹や友だちに声をかけたりすることであった。ノートに書かれた担任の言葉から、教員たちの細やかな対応の様子が伝わってきた。

 ちなみに、全国の小中学校の一部には、軽度の障害(言語障害、自閉症、情緒障害、難聴など)がある児童が通常の学級に在籍しながら特別な支援を受けるために通える「通級指導教室」が設置されている。文部科学省の調査によれば、小学校におけるその設置校数は、平成28年度(2016年度)で全国2万11校中3814校(約19%)に過ぎないが、通級による指導を受ける児童(8万7928名)を障害種別で見ると言語障害のある子どもが最も多く(3万6413名、約41%)、同障害のある子どもの場合、自校になくとも、近隣の他の設置校まで通うケースも多い。春樹の通う学校には通級指導教室があり、春樹も一度行っている。しかし彼は、一度きりで、それ以上は行きたがらなかった。「つまらなかった、ぼくのことはわかってくれなかった」と言ったというが、信子は、通級指導教室の教員が、自閉症などには詳しいものの言語の問題については専門ではなかったからかもしれないと考えた。対応できる教員の数が限られるため、そうした点は、現実問題として仕方のない部分がある。ただ、いずれにしても、春樹には、制度として提供される支援が馴染まなかったゆえに、担任らの対応がより大きな意味を持ったとも言えるかもしれない。