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「精子売買はグレーマーケットだった」‟不妊治療大国”で元証券会社社員が精子バンク日本語窓口を立ち上げたワケ

伊藤ひろみさんインタビュー#1

2021/05/26
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2019年2月にはクリオスの日本語窓口を設置

 当時、スコウは社長を退き、取締役会の1人になっていたため、私は新しい社長とオンラインで面談をしてもらうことになりました。何をやりたいと思っているのかを話すように言われていたのですが、私は志望動機や自己紹介のレジュメ、日本の現状、私が今まで取り組んできたこと、そして今後のビジネスプランをプレゼンテーション資料としてまとめて提出したんです。すると、今までにもいろいろな国の人から一緒にやりたいと言われたけれども、ビジネスプランをつくってきた人は初めてだ、ぜひ一緒にやってみようということになりました。

 それが2019年の1月で、その2月にはクリオスの日本語窓口を設置しました。デンマークの本社には年に2~3回行って、研修、各国担当者のプレゼンに参加します。ラボも見学し、ビジネスサイドのマーケティング、カスタマーサービス、顧客データやドナーのデータをどうやって管理しているかという仕組みなどについても学びました。自分で立ち上げたいと思っていたものとはぜんぜん違う。その何倍もお金と時間をかけて、効率化されたものがもうできている。それを日本に持ってくるのが一番手っ取り早いと、あらためて思いました。

もがいた期間にもネットワークができていた

 ただ、自分で立ち上げようともがいたことも無駄にはなっていません。その時期は収入もなく、貯金を使い果たし、すごく苦しい時期ではありましたが、その分、捨て身で何もコネもない専門家の先生たちや当事者の方々に会いに行き、お話を聞かせていただいたことで、思いがけなくそれがネットワークとなって活きてきました。その後も意見交換してくださる人もいますし、スコウと引き合わせた人もいます。連絡をしても、無視されたこともたくさんありましたけどね。

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©️iStock,com

 実は、以前からクリオスで精子を購入、空輸することは可能ではあったのですが、購入件数は年に数件だけだったそうです。日本語窓口を開設すると日本語でやり取りできることから、メディアで報じられるとともに問い合わせが殺到するようになりました。また、いくつかの医療機関が取り扱いを行ってくださることになりました。それまで日本では、無精子症の方が運よくAIDを受けることができたとしても、ドナーについては血液型しか明かされませんでした。これでようやく、お子さんの出自を知る権利を保障するという選択肢ができた。無精子症の人にとって朗報だ。私はそう思ったのですが、予想が大きく外れ、大変驚いたことがあります。

 昨年11月までに150人が精子を購入し、その過半数がシングルの女性だったのです。

#2【「精子購入150人のうち過半数がシングル女性」「出産第1号はレズビアンのカップル」 世界最大の精子バンク日本語窓口、開設から2年の‟リアル”】につづく)

「精子売買はグレーマーケットだった」‟不妊治療大国”で元証券会社社員が精子バンク日本語窓口を立ち上げたワケ

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