男性の100人に1人が無精子症の日本に、世界最大の精子バンク「クリオス・インターナショナル」(以下クリオス、本社はデンマークとアメリカ)が窓口を開設して2年。現在、日本事業担当ディレクターを務める伊藤ひろみさんが2017年末、文春オンラインに掲載されたクリオスの記事を見て、オーレ・スコウ代表(当時)に日本進出を直談判したのだ。それは、無精子症の夫婦が出自のわかる安全な精子を購入できるようにと考えてのことだったが──。(インタビュー全2回の2回目。1回目を読む)

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シングル女性の問い合わせが多くてびっくり

――いざフタを開けてみたら、シングル女性からの問い合わせが殺到したそうですね。

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伊藤ひろみ(以下伊藤) 既に500人以上の方からお問い合わせがあり、その60%近くがシングルの女性、20~30%が男性が無精子症のカップル、10~20%が同性のカップルからでした。年齢は30代が最も多く、40代の人も大勢います。

 シングルの女性がこんなにも多いということは予想外で、私も大変驚きました。離婚してシングルになり、子どもにきょうだいをつくってあげたいという人、結婚歴のない人、なかにはセックスの経験のない人もいます。最初から選択的シングルマザーを目指している人もいますが、婚活がうまくいかないのでシングルマザーになることを視野に入れ始めたという人が多く、既に卵子を凍結保存している人も少なくありません。30代後半から40代前半に凍結保存し、パートナーが見つからないまま3~4年経ったので、年齢的にもう使いたいという相談をよく受けます。

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 無精子症のカップルの場合は、さきにお話ししたとおり(#1)、日本では非配偶者間人工授精(AID)が認められていますが、そのシステムに満足しない人がクリオスの利用を検討されています。例えば、日本で行われるAIDのドナーは身元が開示されませんし、そもそもドナーを選ぶこともできません。生まれてくる子どもの「出自を知る権利」を守るために、身元を開示するドナーを選びたいというカップル、あるいは夫と何らかの共通点を持つドナーを選びたいというカップルからの問い合わせが多いです。また、妻が高齢であったり、何らかの不妊要因を抱えていたりして、人工授精よりも妊娠率の高い体外受精や顕微授精を行う必要のあるカップルもいます。

 レズビアンのカップルの場合は従来、知人の男性から精子をもらうという方法を採る人がいました。しかし、日本では精子の提供者が生まれた子どもの父親であると認められ、父親に扶養義務が生じる、あるいは逆に父親に親権を取られる可能性があります。そのようなリスクを避けるため、しがらみが生じない精子バンクを利用したいというカップルもいます。

 お問い合わせいただいた方たちには、なるべくオンラインセミナーに参加してもらっています。そこで日本や諸外国の法整備のことから、お子さんへの告知や出自を知る権利、具体的なドナー精子の使い方や、費用の目安、妊娠率などを説明しています。