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 医療の現場での理解も進んでいますが、パートナーが無精子症の方への理解はあっても、レズビアンや選択的シングルマザーに対する偏見はまだまだあります。何より、日産婦が認めていません。また、昨年、「卵子・精子提供の親子関係特例法案」が可決・成立しました。卵子提供では提供者ではなく産んだ女性を母とし、精子提供では提供者ではなく産んだ女性の夫を父とすることは決まりましたが、精子・卵子のあっせんに関する規制や子どもが出自を知る権利についてはこれから2年かけて検討・決定されることになっています。

クリオスはまだ「日本進出」には至っていない

 実は、私の本来の仕事はカスタマーサービスではないんです。というのも、「クリオスが日本に進出した」と伝えるメディアもあるのですが、まだ進出はしていない。日本語での問い合わせや注文に対応する窓口を作ったにすぎません。本格的に進出するには、まず、精子ドナーが生まれた子どもの法的な親にならないことが法律上明確化され、生まれた子どもの出自を知る権利を保障するかどうかの方向性が定まらなければなりません。そして、民間精子バンクの営業が認められること。日本には公的精子バンクをつくるノウハウはなく、このままではドナー不足が解決せず、結局SNS上で行われている個人による精子提供など、問題のある精子提供に頼らざるを得ない人が出てきてしまいます。適切な規制下での運営を認めていただき、国内で日本人ドナーを募ることを目指します。

医療現場や社会の理解を広めなければ

 こうして精子売買のグレーなマーケットを健全化し、精子提供を必要とする方が医療機関でカウンセリングを受けたうえで、精子提供を安心して受けられるようにする。そこまで持っていくことが私の本来の役目なのです。しかし、今回検討されている法整備によって、無精子症と性同一性障害の婚姻夫婦のみに精子提供が認められ、シングル女性や同性のカップルが医療機関で精子提供を受けることを禁止する法律が生まれる可能性もあります。

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©️iStock.com

 そんななか、5月25日に獨協医科大学を運営する学校法人の関連会社が出資する「みらい生命研究所」(埼玉県越谷市)が精子バンクの立ち上げを公表しました。患者様にとっては一日も早く、日本人ドナーからの提供がスムーズに受けられるようになることが最善ですから、喜ばしいニュースです。

 これから私は、カスタマーサービスは本社に常駐する日本人スタッフに任せて、ロビー活動や広報活動に集中していくつもりです。安全な精子バンクの必要性を訴え、それを利用する人たちに対する医療現場や社会の理解を広めなければいけません。今が頑張り時なのです。