質問に多いのは「費用」と「妊娠率」
お問い合わせいただいた方やセミナー参加者からのいちばん多い質問は、費用についてです。精子自体の価格は約7000円から25万円、送料が7万円。クリオスにお支払いいただくのはここまでで、人工授精、体外受精、顕微授精の費用については病院によっても、また患者さんの年齢や状態によっても違います。そもそも日本の病院で、購入した精子を用いた治療を受けられるのかという疑問をお持ちの方も多いんです。もちろん、できるのですが、病院の数は極めて限られています。簡単にはお伝えしておりません。
精子は専用のストローに入ったものが冷凍され、窒素タンクに入って送られてくる。文春オンラインが2017年末、クリオスについて詳しく伝えた時点では、精子は個人でも購入可能だったが、その後デンマークで法改正があったため、現在は医療機関・医療従事者でなければ精子を受け取ることができない(注)。前述のとおり日産婦は医師が精子の売買に関与することを禁じているが、安全な精子を必要としている人たちに理解のある、ごく一部の医療機関が精子の受け取り・保管・治療に協力している。
(注:クリオスは二本社体制でアメリカでも事業展開しており、アメリカ本社では個人宛の配送も可能。伊藤ひろみさんはデンマーク本社の社員)
次いで多いのが、妊娠率に関する質問です。クリオスを使った場合に、人工授精での1回当たりの妊娠率が22.3%なんですが、海外では使われる排卵誘発剤を日本では人工授精の際にあまり使用しないなど、一概に比較できないことがあります。ですから日本産科婦人科学会(以下日産婦)による体外受精の年齢別妊娠率のデータはお見せして、妊娠率は決して高くない、いかに妊娠は難しいかということはしっかり伝えています。
私としては、安易に精子を購入するということをさせないようにしています。よく考えてもらえるように意識して説明しているのです。例えば45歳を過ぎても精子を購入して体外受精にトライしたいという人には、その年齢ではいかに妊娠率が低いか、妊娠できたとしてもどのような問題が生じる可能性があるか、費用もすごくかかるかもしれないということを詳細に伝えています。急いで購入しようとする方には、AIDで生まれたお子さんでAIDそのものに反対している人もいるということを伝え、事の重大性を認識してもらいます。
メールによる質問が100問を超える人もいますし、電話で2時間以上いろいろな質問を続ける人もいますし、精子の購入を2年間迷い続けている人もいます。しかし、このコロナ禍にあっても昨年11月までに150人が購入しました。過半数が、やはりシングルの女性でした。
ドナーに採用されるのは応募者の5〜10%
――どういうドナーが選ばれるのですか?
伊藤 クリオスには18~45歳の1000人を超えるドナーが登録されています。健康チェックやさまざまな厳しい審査がありますので、応募者の5~10%しかドナーに採用されていません。また、クリオス以外の精子バンクにも登録することはデンマークでは法律違反となります。これによって異母きょうだいの数をクリオスで管理しています。