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犯行声明文の〈汚い野菜共〉

 プロファイリングにおいて特に注目したのは犯行声明文の内容でした。淳くんの口に咥えさせられていたものです。

 犯行声明文には赤いインクが使用され、直線的な文字で書かれていた。

〈さあ ゲームの始まりです
 愚鈍な警察諸君
 ボクを止めてみたまえ
 ボクは殺しが愉快でたまらない
 人の死が見たくて見たくてしょうがない
 汚い野菜共には死の制裁を
 積年の大怨に流血の裁きを

 SHOOLL KILLER
 学校殺死の酒鬼薔薇〉(原文ママ)

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 これはちょっと特徴がありすぎるな——文章を読んで、そのような感想を持ちましたね。

「これと似たような文章、言葉の引用があるはずや。探してみてくれ」

 刑事調査官にはそのように指示した上で、科捜研の先生には文章をもとにした犯人の性格分析をお願いしました。

 特に声明文では、「野菜」という言葉が気になった。これは犯人の属性を示す重要なキーワードになると。特命班からも、野菜は「植物人間」や「障がい者」の比喩であると考えられ、犯人の関心もそこにあるはずだという指摘があがってきました。

 ただ、先入観をもちすぎると、大事なことを見落としてしまう。プロファイリングに偏りすぎるのではなく、捜査の“鉄則”である現場周辺の洗い(聞き込み)は、人員の8割以上を投入しておこないました。

 被害者の属性、当日の足取りについては徹底的に洗っていく。特に、学校関係者への聞き込みには力を入れました。学校の校歌やその由来まで、とにかくいろんな資料も貰いましたね。他にも過去に職務質問をした人間や前歴者。怪しいと感じたものは全て洗ってもらいました。

 捜査本部には大量の電話がおかれ、地域住民から不審者情報を集めていました。それに加え他府県の県警からもよく情報が入りましてね。なぜか島根県からが一番多かったと記憶しています。こうした不審者情報は、捜査三課の警部を専属にし、分析させていました。

 プロファイリング、現場の洗い、情報収集。これらの基本的なことを疎かにせず、犯人像の“物差し”をつくっていったということです。

「黒いゴミ袋を持った中年男が、友が丘中学校の北通用口付近をうろついていた」

「黒いブルーバードが付近に停車しているのを見た」

 淳君が消息を断ってから遺体が発見されるまでの間、現場付近ではこのような目撃情報が相次いでいた。そのため、テレビや全国紙などのマスコミは「中年男」の犯人像を盛んに報じていた。

 実は、Aの名前はかなり早い段階から、捜査線上に浮上していました。

 淳くんの頭部が発見されたのは5月27日の午前6時半頃でしたが、同日の午後3時には、殺害現場となった「タンク山」から淳くんの遺体が発見されました。その頃にはすでに、Aの名前が私まで上がってきていたと記憶しています。たとえば、住民から匿名で、「Aが犯人だ」と名指しでの情報提供がありましたね。証拠や根拠のない情報でしたが、そういうのが意外と重要なのです。

殺害現場となった「タンク山」の慰霊碑 ©共同通信社

情報共有は6名だけ

「Aがクロで間違いない」

 プロファイリングの件もあり、捜査が始まった頃からそう考えていたのが、正直なところです。ただ、「中年男」や「ブルーバード」など、他の可能性を一つずつ潰していく必要がある。全ての人が納得できる捜査資料を作らなければ、裁判所の信用は得られず、逮捕や起訴もできません。Aの存在は頭の片隅に置きつつ、基本に沿って捜査を進めました。

 捜査をするうえで、もっとも気を遣ったのが、保秘の徹底とマスコミ対策です。仮に犯人が少年だった場合、社会に与える影響は計り知れず、慎重に行動する必要があった。ちょうど同じ年の5月、奈良県の月ヶ瀬村で女子中学生が行方不明になる事件が発生しましたが、マスコミが被疑者を逮捕前に特定し、テレビ各局が被疑者の自宅周辺で張り込む騒ぎに発展していました。

「あんなふうになったら、この事件はアウトや。潰れてしまう」

 そう考えて、警察内でも情報共有はごくわずかな人間に限定したのです。