2016年7月26日未明に相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた大量殺傷事件。入所者19人を殺害、26人に重軽傷を負わせた植松聖(事件当時26)は、同施設に3年以上勤務した元職員だった。植松は犯行動機について「意思疎通のとれない障害者は安楽死させるべきだ」「重度・重複障害者を養うには莫大なお金と時間が奪われる」などの自説を展開し、世間に衝撃を与えた。

 著書「こんな夜更けにバナナかよ」など、「障害者との共生」をテーマに取材をつづけるノンフィクションライターの渡辺一史氏は、横浜拘置所に拘留されていた植松と14回にわたって面会。渡辺氏が「週刊文春」2020年4月2日号に寄稿した記事を再公開する(日付、年齢、肩書き等は掲載時のまま)。

(全4回中の3回目。#1,2,4を読む)

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死刑を言い渡した横浜地裁

 誰もが極刑を疑わなかった相模原19人殺害犯、植松聖の一審判決。だが2カ月間の公判は全容解明に遠く及ばなかった。かねてから「控訴はしない」と口にしていた植松。だが、判決2日後に筆者と面会した彼は、「(死刑に)納得したわけではない」と逡巡を見せたのだ。

《計画的かつ強烈な殺意に貫かれた犯行であり、悪質性も甚だしい》(判決文)

 2016年、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」において、入所者19人を殺害、26人に重軽傷を負わせた元施設職員の植松聖被告(30)に対し、横浜地裁は3月16日、死刑を言い渡した。

植松聖死刑囚

 私が、勾留先の横浜拘置支所で植松と面会したのはその翌々日のことだった。

 面会時間はいつもと同じ30分。係官と面会室に現れた植松は、顔を合わせるなり、「これまで本当にお世話になりました」と最後のお別れのような口調で深く頭を下げた。私は出鼻をくじかれた気分だったが、まずは単刀直入に「死刑判決をどう受け止めましたか?」と尋ねた。

「まあ、出るだろうなとは思ってましたけど、納得しているわけではない」

「納得できない点とは?」

「懲役20年くらいが妥当だろうと」

「それなら控訴すればいいじゃないですか」

 私がいうと、「それは、自分がいってきたことと矛盾するので」といった。

裁判を続けるのは税金のムダ遣い

「いってきたこととは?」

「二審三審と続けるのはおかしい」

「税金のムダ遣いだと?」

「はい。それに、もう答えは出ているので。ダラダラ続けるのは潔くない」

 この日の植松は、どこか吹っ切れたような清々しい表情をしていた。すでに死を受け入れ、達観したかのような雰囲気さえあった。