2020年4月7日、東京都に緊急事態宣言が発令された。あれから1年以上が経つが、新型コロナウイルスの感染状況はいまだ深刻なままだ。健康被害はもちろん、経済に与えた損失もはかり知れない。なかでも性風俗業界で働く女性に与えた打撃は深刻だ。

 ここでは、ノンフィクション作家の中村淳彦氏が、コロナ禍のなかアダルトビジネスに従事し続ける女性たちに直接取材を行い、彼女たちの生の声をまとめた著書『新型コロナと貧困女子』(宝島社新書)の一部を抜粋。池袋駅西口で街娼をしながら生計を立てる女性のエピソードを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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池袋駅西口にある街娼スポット

「立ちんぼ? 北口にいるのは中国人と台湾人、日本人はずっと前から西口駅前って決まってるんだよ」

 美香さんは挨拶もしないうちに、やや乱暴にそう吐き捨てた。彼女は20代から15年間以上、池袋駅西口に立つ街娼だ。池袋駅西口には街娼スポットが2カ所あり、彼女はそのどちらかにいつもいる。

 池袋駅西口前で待ち合わせていた。美香さんは巨漢なのですぐにわかる。目が合った。挨拶するわけでなく、自然と「その場所」に足が向かっていく。

©️iStock.com

 街娼は違法行為なので女性たちは一般社会とは隔絶されている。長年、その世界で生きる美香さんとは、顔をあわせて挨拶し、主旨を説明して協力してもらうというような一般的な取材者と取材対象者のような感じにはならない。まず大前提として、筆者が“書籍執筆のために取材している”という社会的行為そのものに、彼女はまったく興味がない。

 街娼というと夜や暗闇をイメージするが、池袋の街娼は陽の当たる場所で昼間に活動する。筆者は池袋を日常的に通行するので、「その場所」を何十回、何百回と見たことがあるが、強烈に陽当たりのいい場所でイメージは海水浴場に近い。

 10時から16時が主な活動時間だ。池袋の街娼たちは夜や深夜まで客を待つことはない。午前中、彼女たちはそれぞれが暮らす場所から街娼スポットに“出勤”する。アパートで暮らす単身女性もいれば、ホームレスやネットカフェ難民もいる。そして、午前中のうちに顔なじみの暴力団員が集金にやってくる。彼女たちは黙って暴力団員に1000円札を1枚渡す。

 いわゆるショバ代と呼ばれる“みかじめ料”で、1000円は池袋駅西口で一日、客をとるための料金だ。街娼専業の常連、副業の非常連を合わせて池袋には数人~十数人の日本人街娼がいる。彼女らは全員、ここで客をとるときはショバ代を支払っている。