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「彼氏? 前はいたよ。何カ月か前までは2人いた。双子のヤクザね。あとストリートミュージシャンの駿君(仮名)ね。駿君はお話しするだけ」

 以前に会ったとき、こんなことを話していた。5000円を彼女に渡し、喫茶店に連れだした。営業自粛要請で池袋の中心地では、ほとんどの店舗が閉まっているか、テイクアウトだけの営業だった。たまたま通りがかった喫茶店が営業していた。ほぼ満席という状態だった。現状の生活を聞きたかったが、筆者は会話のフックになんとなく「彼氏とはどうなったの?」と振ってしまった。すぐにおかしな話になった。

“彼氏”“元彼”と呼ぶ、セックスフレンドみたいな関係の男性

 売春、双子のヤクザ、カツアゲとひどい単語が飛び出す。美香さんには相手が“なにを、どうして、どんな理由で聞きたいのか”みたいなニュアンスは通用しない。街娼としてずっとチヤホヤされて好き放題に生きているので、話したいことしか話さないというタイプだった。「最初、元彼が双子って知らなかったのね。辰治(仮名)と竜二(仮名)っていうんだけど、見た目はいかにもヤクザ。年齢はよくわからないけど、アタシと同じくらいの年齢なんじゃないの。パンチパーマでジャージ着て、サングラス、クネクネ歩くみたいな。最初は辰治が売春の客で、そのときはいまと同じでホテル別1万円でやった。で、セックスして俺の女になれって口説かれた。セックスもうまかったし、まあ、いいかって。辰治は武闘派のすごくバカで、しのぎはずっとカツアゲみたいなことをしている」

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 元彼についての質問に前のめりに答えるので、そこから始めることにした。

 辰治との出会いは、売春婦と買春客という関係。池袋駅西口のあの場所で声をかけられている。客としてセックスしたが、発射後に口説かれて恋愛関係になった。なので、辰治はその後お金を払うことはなかった。それから辰治は夕方以降に街娼スポットに頻繁に来るようになり、週2~3回の頻度で肉体関係をもつようになった。

 美香さんは辰治を“彼氏”“元彼”と言うが、セックスフレンドみたいな関係のようだ。社会と隔絶したところで生きているので、美香さんの言葉の使い方や意味のニュアンスは一般人のそれとは少し違う。リモートワーク中と思しき隣のサラリーマンには、すべて聞こえている。しかし、池袋ではそんな珍しい話ではない。サラリーマンは、あまり気にしていなかった。

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