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シビアな勝負師に徹して

 私の場合は、各時代に応じてトップ棋士として戦い続けるために何が欠けているか、どういう力を蓄えていけばいいかは、それなりに明確だったと思う。

 では、藤井さんの課題はなんだろうか。

 デビュー当時からすでにトップ棋士に近い実力を備えていた。どんな戦法で来られても見事に対応し、弱点という弱点が見えなかった。29連勝をした時も、普通は連勝中に危ない局面があるものだが、不利になって負けそうになった将棋は2~3局しかなかった。

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 彼自身は2017年5月のインタビューでこう答えている。

「実力としてどのくらい伸びているのか、どのくらい強くなったのか、どのくらい(の位置)にいるかは、なかなか数局では分からないです。逆に序盤で形勢を損ねてしまう将棋が多いので、序盤の組み立てが課題だと思うようになりました」

「(強くなるための課題は)たくさんあると思いますけど、まずは序中盤の形勢判断でしょうか……。将棋にはものすごく強くなる余地があると思っていますので、自分の頑張り次第かと思います」(「将棋世界」編集部『強くなることが僕の使命』)

29連勝を果たした藤井聡太四段 ©️文藝春秋

 2018年度は先手番が16勝2敗、後手番が29勝6敗。後手番が相次ぎ、振り駒運のなかったこの時期に、後手番でも作戦負けをしないトップレベルの序盤力を身につけたように思える。そして序盤で局面をリードすれば、それを少しずつ広げて勝つ。いわゆる横綱相撲で逆転勝ちも少ない。

 時間配分について、藤井さんの勝負師の一面が垣間見えるのは、お互いに持ち時間がなくなった時である。

 1手60秒以内に指す「1分将棋」になった時、自分が形勢不利な局面で彼はノータイムで指す。形勢不利な時は考えても仕方がない。自分が考えている間に相手にも考える時間を与えてしまうからだ。だからノータイムでどんどん指していく。

 そうするうちに、ひとたび相手が悪手を指して形勢が混沌としたり、自分が優勢になったりすると、1分将棋でも59秒をしっかりと使って勝ちを読み切ろうとする。このあたりはシビアな勝負師に徹していると言える。