この1年を、どう戦ってきたのか?
昨年春。人類未曾有の感染症が日本にも襲いかかってきた第一波。私たちは混乱し、やはり分断した。
不要不急の外出自粛、会食自粛が要請されて、外出や会食先である飲食店からお客が消えた。飲食店に休業要請は出ていないし、補償もない。
そのなかで飲食店は、自主的に休業する店と、通常営業を続ける店とで分かれた。
当時「店を開ければ外出や会食を誘うことになるから」と休業を決めた店は、「休めるだけの余力があるからできること」と妬まれ、営業を続ける店のほうも「みんなが自粛しているのに」とモラルを問われ。自粛警察と呼ばれる人々から、インターネットで批判されたり、貼り紙をされる飲食店もあったほどだ。
補償なき自主休業か、お客のこない営業か、それともほかに道はあるのか? 飲食店のリーダーたちは、日々苦悶の中にあった。
「何が正解なのかわからない」
わかっていたのは、どっちへ進んでも茨の道だということだ。
第一波で拾い集めたシェフや店主たちの声
そんな第一波で、私は、シェフや店主たちの声を拾い集めた。
政治も世の中も、飲食店を巡る状況も大混乱のさなかにあり、彼らの答えも今日と明日では変わってしまう。だから「今日の答」として、平均1.6日に1人のペースでウェブサイトの「note」で発表。これをまとめ、半年後の追加取材を加筆したのが『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』(文藝春秋)である。
本書に登場する34人の答えは、すべてが「違う」。
レストランか居酒屋か、大勢のスタッフを雇っているのかワンオペレーションか、1店舗か多店舗か。都心の繁華街にあるのか、郊外の静かな住宅街か、老舗か新店か。背景が違えば、抱える問題も、視点も変わる。さらには一店一店、一人ひとり、毎日違う。
初めての緊急事態宣言下、そして第二波を乗り越えた10月。2020年のシェフたちは、それぞれの場所でどう戦い、日々どんな答えを出してきたのだろうか。
【続きを読む 「コロナ禍になって禁酒の今が一番厳しい」 ‟倒産”と隣り合わせの飲食店店主たちの‟悲痛な叫び】