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「コロナ禍になって禁酒の今が一番厳しい」 ‟倒産”と隣り合わせの飲食店店主たちの‟悲痛な叫び

『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』に寄せて#2

2021/06/07

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, グルメ, 社会, 働き方, 読書

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それでも日本人は桜を観に行った

 2020年2月、私たちは横浜に停泊しているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の報道を、息を詰めて見守っていた。新しい感染症、新型コロナウイルスの正式名称が「COVID−19」とされた11日、中国ではこれによる死者が1000人を突破。

 「中国は大変なことになっているね」と他人事のように構えていたこの2日後、日本でも初の死者が確認された。イタリア・ヴェネツィアのカーニバルは開催途中で突然中止され、「嘘でしょ?」なんて狐につままれている間に北海道では独自の緊急事態宣言が発令されている。

 3月に入る頃、全国でトイレットペーパーの買い占めが起こった。業者がトラックにたっぷり積み込んだ写真をSNSで流し「安心してください」と促すも、今日、トイレットペーパーが手に入らなければ営業ができない飲食店の店主たちは街中のドラッグストアを駆けずり回った。

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 殺気がかった東京ではマスクが1枚数千円で売られ、全土で移動制限されたイタリアでは人々がバルコニーに出て祈るように歌い、それでも日本人は桜を観に行った。

©️iStock.com

東京オリンピック・パラリンピック2020の延期が決定

 人類にとって、この新型コロナウイルスは初めての体験だった。

 3月11日、WHOがパンデミックを認定してもなお、日本政府は東京2020オリンピック・パラリンピックを「予定通り開催」と発表し、東京都は「中止はあり得ない」と断言。2021年への延期が決まったのは約2週間後の24日だ。ここから東京は、カードをひっくり返したように“コロナ禍”になった。

 翌25日、小池都知事は「感染爆発の重大局面」だとして、都民へ夜と週末の外出自粛を要請。27日には国内の感染者数が初めて100人を超え、28日、わずか1日で200人を超えた。

 そして30日、志村けんさんの訃報が伝えられる。小池都知事は緊急会見を開き、「夜間に営業するバー、ナイトクラブ、酒場など“接客”を伴う飲食店は避けて」と要請。この発言を聞いた多くの店主たちは、「飲食店は外出や会食の場所であり“接客”を伴うから」と休業を決めた。

 当時、彼らの意識としては「要請に従った」行動。しかしこの外出や会食の自粛は一般に対してのものであって、飲食業への要請ではない。したがって協力金などの補償もない。

 つまりこの休業は、自分の良心で決めた自主休業、ということになる。

 補償なき自主休業か、お客のこない営業か、それともほかに道はあるのか? 国や都のリーダーがどんなに答えを先延ばしにしようとも、飲食店のリーダーたちは一日一日と激変する情勢を読みながら「今日の答え」を決めていかなければならなかった。