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生活費を下げる目的の移住は無意味? 東京脱出を考えたときに気を付けたい“お金に関する5つの落とし穴”

『東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)より #2

2021/06/24
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同じ県内でも5倍以上違う水道代

 電気ガスに続き、お次は水道だ。

 水道事業は各自治体が運営しているが、こちらも、地方ほど割高になる。人口が少なくなると、水道設備を維持するための一人当たりの費用負担が大きくなるからだ。

 浄水場や水道管の設置費、維持費、人件費などすべての費用は原則、料金収入で賄われている。水道設備の多くは老朽化が進んでおり、財政力の弱い自治体では住民一人当たりの負担が大きくなるばかりだ。水道の基本料金は全国で月額平均841円だが、最も高い北海道では月額1412円になる。

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 ただ、一概に田舎に行けば行くほど高くなるというわけではなく、東京都は月額920円と平均より高い。一方、人口は少なくとも、水資源の豊富な静岡県(407円)や山梨県(535円)などは、全国平均に比べ、割安だ。水道料金には、地理的な要因が大きく左右し、同じ県内でも大きく異なる。

 例えば、筆者が暮らす兵庫県には水道料金が日本一安いと言われる赤穂市がある。人口約4万7000人の小都市だが、同じ人口規模の淡路市に比べ、水道料金はけた外れに安い。

 赤穂市は、上下水道合わせた基本料金が「2か月」で2684円(税込み)だが、淡路市では「1か月」で2772円(税込み)だ。使用料により加算される従量料金も大きく異なり、例えば同じ口径13経mm(上水)で比較すると、赤穂市は20㎥までは無料で、それ以上でも、1㎥につき45円だ(60立方メートルまで)。対する淡路市は、赤穂市が基本料金に含める20立方メートルの従量料金は4000円(1㎥につき200円)になる。

 同じ県内でも、島外からも導水する淡路市とは違い、水量豊かで水質もいい千種川が流れ、地下水が豊富な赤穂市では、これだけ大きな差が出る。光熱費は毎月かかるもので、安いにこしたことはない。移住を検討する際には、移住先の光熱費を巡る状況も確認したほうがいいだろう。

住民税に大差はない

 割高になるのは、光熱費だけではない。税金も割高になる可能性がある。

 まずは、住民税だが、これは都道府県・市町村により、多少の違いはあるものの、光熱費ほどの大きな差にはならないので安心して欲しい。

 住民税には「個人住民税」と「法人住民税」があるが、毎年1月1日時点で居住する市町村(都道府県)に支払うのが個人住民税だ。教育、福祉、消防、ごみ処理といった行政サービスの財源になっている。

 個人住民税は、非課税限度額を上回る納税義務者に低額の負担を求める「均等割」と、所得金額に応じた「所得割」の二つで構成される。それぞれ、都道府県に納める都道府県民税と、市町村に納める市町村民税(東京23区の場合は特別区民税)に分かれるが、自治体によって大きく変動しないように標準税率が設定されている。

 そのため、住む地域によって大きな差はないが、特に均等割の部分は都道府県・市町村の財政状況により若干の変動がある。例えば、兵庫県神戸市の市民税は3900円だ。標準額より400円高くなっているが、これは市が創設した認知症の人に優しい町づくり「神戸モデル」制度の負担額になっている。また、県民税も2300円と標準額より800円高い。これは、森林や都市の緑の整備に使われる「県民緑税」だ。森林保全・整備を目的とした均等割の増額は多く、東北エリアなどでも導入されている。