東京一極集中の流れを解消しようと、国は地方移住に対する補助金を拡充し、人手不足に悩む地方自治体も移住者向けの独自の補助金を準備した、国の「地域おこし協力隊」などの制度を利用したりして、移住者獲得に力を入れている――。

 そうした取り組みとコロナ禍が重なり、2020年に東京都を転出した人口は比較可能な記録史上過去最大となった。移住に関心をお持ちの方も多いだろう。そんな方にとってのガイドブックになりうる一冊がジャーナリストの澤田晃宏氏の著書『東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)だ。ここでは同書の一部を抜粋。移住にかかる「お金」の現実について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む

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生活費は東京と変わらない

 地方移住を目指す人の期待の一つに、生活費が下がるのではないか、という思いがあるだろう。

 確かに、生活費のなかでも大きな部分を占める住居費は、東京圏は飛びぬけて高く、地方に行けばその安さに驚く。東京の民営住宅の家賃は1か月3.3㎡当たり8566円で、最も安い山口県(3430円)の2倍を超える。

都道府県別の住居費 出典:国土交通省「都道府県地価調査」(令和2 年度)、総務省統計局「統計でみる都道府県のすがた 2020」

 逆に、地方の人からすれば、東京の家賃は考えられない額だと言う。筆者は地元淡路市出身の男性から、こんな質問を受けたことがある。

「『幸せ!ボンビーガール』(日本テレビのバラエティ番組)で、よく上京した女の子の物件探しに密着してるけど、あんな鳥小屋みたいな広さの部屋に、なんで5万も6万も払わなあかんの?」

 そう思うのも無理はない。淡路市内で家賃5、6万円を払えば、築年数などの状態にもよるが、2DKから、3DKの物件を借りられるだろう。それだけ家賃が安いのだから、さぞ地方の生活費は安く抑えられるに違いないと思うかもしれないが、そんなことはない。期待するほど安くならないというのが、筆者の率直な感想だ。

 淡路島に移住する前は、東急電鉄池上線の御嶽山駅(東京都大田区)から徒歩5分程度のマンションに住んでいた。2DKで家賃は9万円。地方の人ならこれでも高いと思うかもしれないが、都内で、さらに駅近でこの家賃は格安だ。1988年築と古く、4階建ての4階に住んでいたのだが、エレベーターのない不人気物件だった。

 そして現在、筆者が暮らす家の家賃は4万4000円だ。移住後に地域にあった空き家の所有者に直接お願いし、新たに移り住んだ物件だ。東京の格安マンションは40㎡もなかったが、現在の住まいは延べ床面積100㎡を超える2階建ての戸建て住宅だ。妻と二人暮らしの筆者には広過ぎて、使っていない部屋もある。民泊でもしようかと考えているところだ。

車は生活必需品

 それはさておき、筆者の場合で考えると、住居費だけを見れば、4万6000円(9万-4万4000円)安くなったことになる。

 ただ、その分、地方ならではの出費がある。その最たるものが車両費だ。

 東京都心部は鉄道網が網の目のように張り巡らされており、車が必要だと感じたことはない。取材で地方に行く際などはレンタカーを使ったが、東京で過ごした約20年間で車を所有したことはなかった。

 しかし、淡路市では、ローカルバスが走ってはいるが、本数は少なく、電車などの他の公共交通機関はない。車は生活必需品だ。

©iStock.com

 筆者は移住後に、日常生活や取材活動のために1台、農作業や漁師のアルバイトのために1台、格安の古い中古の軽自動車と軽トラックを買った。2台で約60万円、5年使うと仮定すると、月当たりの費用負担が1万円になる。自動車保険に加入し、2台で年間約10万円、1か月当たり、約8000円だ。