東京都からの転出者数が比較可能な2014年以降、過去最大の数値を記録した2020年(総務省「住民基本台帳人口移動報告」)。東京一極集中の流れを変えた大きな要因のひとつは、コロナ禍におけるテレワーク推進といっても過言ではないだろう。現在も続く新型コロナウイルスの感染拡大。移住を考えている方も多いかもしれない。

東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)は、「コロナ移住」の当事者であるジャーナリストの澤田晃宏氏が、コロナ移住者や移住支援団体、地方自治体を取材したルポルタージュだ。ここでは同書の一部を抜粋し、地域おこし協力隊として島根県邑南町で農業研修を開始した石井さん兄弟、半農半Xで四国でみかん栽培を手がける石川さん夫婦の移住の実態を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

◆◆◆

ADVERTISEMENT

地域おこし協力隊として新規就農

 典型的な中山間地域である邑南町は、半農半X事業を進めるにも「X」部分の仕事が少ないのがネックとなる。

 そこで担い手不足の解消に利用するのが、地域おこし協力隊としての受け入れだ。邑南町のみならず、農家の担い手不足に同制度を利用する自治体は多い。

 農業次世代人材投資資金には就農前の「準備型」もあるが、「都道府県等が認めた研修機関等で概ね1年以上かつ概ね年間1200時間以上研修を受けること」などが交付要件になっており、非農家にはハードルが高い。その点、地域おこし協力隊としてなら、非農家で未経験であっても、生活を担保されながら新規就農を目指すことができる。

©iStock.com

 広島県安芸郡府中町の出身の石井湧貴さん(26歳)、大貴さん(24歳)は、2020年4月に兄弟で邑南町に地域おこし協力隊として移住した。二人とも同じ工業高校出身で、卒業後も広島市内の同じセキュリティカメラなどを製造する工場で働いていた。

 2019年8月、兄の湧貴さんはふと提案した。

「農業しないか?」

 ただ、田舎暮らしがしたい。田舎と言えば、農業だろう。具体的に田舎に行って何をするかという計画はなかったが、弟の大貴さんは話に乗った。

 兄の湧貴さんが「人生一回きり。工場は毎日同じことの繰り返しで、生涯、この仕事を続けるのは嫌だった」と言えば、弟の大貴さんも「頑張っても利益は会社に行く。自分の力で稼ぐ仕事がいい。動くなら早いほうがいいと思った」と振り返る。

 9月には広島市内であった移住イベントに参加し、新規就農者を募る自治体を巡るバスツアーにも参加した。そのなかで、地域おこし協力隊として新規就農者を受け入れる邑南町の提案は魅力的だった。

「未経験で何からすればいいかわからない状態ですが、最低限の生活費はもらえるし、野菜ではなく『ぶどう』をつくるというのが魅力的だった」(弟の大貴さん)