堂場 僕は服藤さんの本を読んで、科学捜査の将来に関しての見通しは明るいんじゃないかと思いました。というのも科学的に捜査したものは記録に残る。だから今後も積み重ねることによってどんどん蓄積されるんじゃないかと。
服藤 私は逆に不安なんですよ。今後5Gをはじめ、様々な新しい技術が出てくるなかで警察では解析できない、犯罪に利用できる高度な技術が出てくる可能性があります。もしかしたら既に登場していて、警察がいまだに発生にすら気づいていないかもしれない。
堂場 たしかにあり得ますね。
服藤 常にそういう可能性があることを捜査員ひとりひとりが念頭に置いて仕事することがより大切になってきています。警察内でも「情報を取れ」と言う人はいっぱいいるんですけど、取っただけではダメで、それを解析したり自分の頭で考えて物事を構築していかなければいけない。
堂場 言われたことをやるのは楽なんですよね。でも、新たなことを考えるというのは、警察に限らず、どんな業種でも一番難しいことだと思います。
服藤 個人の資質が大きく関係してきますよね。本の中で、イギリスのプロファイラーのデヴィッド・カンター教授とのエピソードを書きましたが、彼が言っていた「センスは天命である」というのはほんとにその通りじゃないかと思います。
堂場 そう言われちゃうと教育だけでは難しいですよね……。
服藤 そしてセンスがあったとしても、組織を俯瞰的に見られないと活かせない。警察組織でいうと、警視になってはじめて警視総監に直接決裁を仰ぐことができるようになり、各部とも折衝がしやすくなるんです。つまり、刑事課長や副署長を経験していくことで幅が広がって、センスが開花していく。全体像がわかると、どこに問題があってどうしたらいいのかというのが見えて、組織をより良いものに改革できるようになるんです。
堂場 僕ら日本人は「現場で刑事一筋30年」みたいな方をすごく尊敬してしまうんですけど。
服藤 もちろん、そういった方は組織の宝ですし、絶対に必要な人材です。
堂場 加えて、鳥の目を持つ人間をどう育てていくかが今後の課題なんですね。
(#2へ続く、初出:『オール讀物』2021年6月号)
どうばしゅんいち 1963年生まれ。2000年「8年」で小説すばる新人賞を受賞。警察小説の旗手として知られる。『赤の呪縛』など著書多数。作家デビュー20周年の記念イベントなどは公式サイトへ。
はらふじけいぞう 1957年生まれ。東京理科大学卒業。警視庁科学捜査研究所研究員を経て、初代科学捜査官に。著書に『警視庁科学捜査官』がある。