昨年9月、韓国の7人組ボーイズグループBTSが米Billboardのシングルチャートで首位を獲得した。コロナ禍をはね除け、K-POPが快進撃を続ける秘訣は何なのか。本書はK-POPがファンを熱狂させる“仕掛け”を解き明かす一冊だ。著者の田中絵里菜さんがK-POPのクリエイティブの魅力に開眼したのは大学生のときだった。
「SHINeeのミニアルバム『Romeo』(09年)に出合い、そのアート性が高く洗練されたイメージに衝撃を受けました。ディレクションを手掛けたのはミン・ヒジンさんという女性で、それ以来、韓国で活動するクリエイターについて調べるようになりました」
その後、田中さんは2015年に単身渡韓。現地の雑誌社に勤務しながら、K-POPシーンの第一線で活躍するMV監督やデザイナーに直に話を聞く機会を得た。本書にも彼らの貴重な談話が収められている。
「K-POP界では毎年100組ほどのアイドルグループが誕生し、その多くが2年と持たないと言われます。K-POPライターのパク・ヒアさんは『時代を反映していないグループは成功できない』と仰っていましたが、他と差別化を図るためにも各グループが趣向を凝らしたコンセプトを打ち出しています。昨年デビューしたガールズグループWeeeklyが環境保護をテーマにした楽曲を発表したときは、まさに世相を映し出していると思いました」
K-POPが世界市場に進出できたのは「お金」「時間」「距離」「言語」「規制」という5つのハードルをクリアし、ネットさえあればハマることができる「バリアフリー」な環境があるからだという。
「K-POP界にはコンテンツを無料解禁するフリーミアムの考え方が浸透していて、国外でMVなどが視聴可能なのは勿論、公開と同時に多言語字幕付きで配信されます。一方、日本のMVは著作権保護のため国外では見られないものが少なくない。それゆえ、韓国にも日本のアーティストのファンが沢山いますが、彼らは無許可の動画を視聴せざるを得ません。海外のファンを獲得する上で、このような環境の差は大きいのではないでしょうか」
ファンが一丸となって楽曲を連続再生してチャートインを狙ったり、自ら出資して街頭広告を出したり、K-POPアイドルの応援方法は日進月歩している。
「K-POPの良さの一つは素材が豊富で“布教”しやすいこと。それを支えるのは『ホームページマスター』と呼ばれる人たちで、アイドルのコンサートや会場入りなどの様子を撮影した写真や動画を私設サイトやTwitterにアップしています。その行為自体はグレーゾーンですが無料の広告塔という見方もできるため、事務所は“ホムマ”の活動を黙認しています。公式映像にファンが字幕を付ける『公式ファンサブ』というシステムも言語の壁を取り払う上で一役買っています」
韓国人は自分たちのせっかちな気質を“パリパリ精神”と表現するそうだが、K-POPシーンも目まぐるしく変化し続けている。
グローバル化に成功したK-POPは今後どのように発展していくのか。
「韓国式のアイドルグループの作り方はオーディション番組を通して輸出され、アジア各国でK-POPナイズされたグループが続々と誕生しています。日本ではJO1やNiziUがそれに該当しますね。K-POPはいち音楽ジャンルを超えて、プロモーションやアーティスト育成のシステムそのものを指す言葉に変化しつつあると感じています」
たなかえりな/1989年生まれ。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、2015年に単身渡韓。現地の雑誌社で働きながら、日韓のメディアで撮影コーディネートや執筆を始める。2020年に帰国し、現在はフリーランスのデザイナー/ライターとして活動している。