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渋谷川の源流へ

 そんな渋谷川上流だが、意外にも源流は今も健在だ。新宿駅から徒歩10分ほどの新宿御苑。その広大な敷地に東西に連なる池が、渋谷川の源だ。

 一番東側の「下の池」の端まで行くと、そこには渓谷のように流れ出す渋谷川の姿がある。池から溢れ出す水に加え、川底からも水が湧き出して同心円に波紋をつくる。流れはすぐに暗渠に吸い込まれてしまうが、渋谷川が確かに川である証左のような場所だ。

〔渋谷川の始まり〕渋谷川の源流は都心とは思えない渓谷のような流れ。しかし水はすぐに暗渠に落ちてしまう。

 一方、原宿駅西側に広がる明治神宮の森もまた渋谷川の源流のひとつだ。一時期パワースポットとしても人気を呼んだ横井戸「清正の井」から湧いた水は流れ出して小川となっている。かつてその川は竹下通りの裏手を流れて渋谷川に合流していた。

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〔明治神宮清正の井〕明治神宮御苑の名井「清正の井」もまた渋谷川の源流のひとつだ。

 新宿御苑や明治神宮の他にも、渋谷区・港区には水辺のある公園や庭園が点在している。原宿の東郷神社の池、渋谷の外れにある鍋島松濤公園の池、広尾の有栖川宮記念公園、目黒の白金自然教育園、青山の根津美術館庭園……これらもまた、かつて渋谷川に注いでいた小川の源流だった。

 さらに渋谷、千駄ヶ谷、富ヶ谷といった地名に目を向けてみれば、これらもまた渋谷川やその支流が流れていた谷に由来する地名である。いまとなっては別々の場所にある公園や庭園も、暗渠をフィルターにすることで、水の流れによる空間的なつながりがみえてくるのだ。

渋谷川流域の地図。まさに都心のど真ん中を流れている(地理院地図を加工)

今も新宿御苑の東縁に残る「もう一つの水源」

 さて、新宿御苑付近に話を戻そう。渋谷川には御苑の池のほかにもう一つ大きな水源があった。それは玉川上水の余水だ。

 江戸の上水道として17世紀半ばに開削された玉川上水は、新宿御苑の北東の四谷大木戸を終点とし、ここから地下に埋めた樋で江戸市内へと水を供給していた。ここでは水量調節が行われ、余った水は渋谷川に落とされていた。