近年、街歩きの視点のひとつとして少しずつ認知が広まっている「暗渠」。本来は蓋をされた川や水路そのものを指す言葉だが、この場合は、地下ではなく地上の、かつて川が流れていた場所を暗渠と呼ぶことが多い。

「暗渠」はどんなところにある?

 日頃見慣れた町でも、注意して見てみれば、区画を無視してくねくねと曲がった道や、延々と続く緑道、周囲より少し低くなっている路地、川もないのに橋の名前のつく交差点など、景観の中にちょっとした違和感を覚えるような部分があるだろう。それらはもしかすると暗渠かもしれない。

 ひとたびこのような暗渠に気がつくと、大袈裟にいえば町の見え方が大きく変わってくる。暗渠というフィルターを通したまなざしで街を捉えることで、眼前に広がる景観の背後に潜んでいるものに気づく。失われた水の流れが結ぶ空間の繋がりと広がり、そして人と川が関わってきた時間の重なりと奥行きが感じられてくるのだ。この「見えていなかったものが見えてくる」楽しみこそ、暗渠が注目される由縁だろう。

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 この記事では東京の暗渠のいわば象徴的存在として知られる渋谷川の暗渠を辿りながら、暗渠の景観を通して町の広がり(空間)や奥行き(時間)を探ってみよう。

渋谷区&港区を流れる「渋谷川」

〔暗渠から開渠へ〕暗渠から開渠へ。流れる水は高度処理再生水。

 渋谷川は渋谷区、港区を流れ東京湾に注ぐ全長11kmの川だ。港区内では古川と呼ばれる。暗渠になっているのはそのうち、渋谷駅以北の上流部、穏田川(おんでんがわ)とも呼ばれていた区間だ。

 1962年から63年にかけて暗渠化され、地下は下水道に、地上は道路に転用されている。キャットストリートのところ、と言えばピンとくる方も少なくないだろう。渋谷川には本流の他にも宇田川など多くの支流があったが、いずれも暗渠化されたり埋め立てられてしまっている。