公判で傍聴人らを絶句させた“歪んだ夫婦関係”
夫に「俺が死ぬ前に自首してくれ」と説得され、樽井被告は自ら110番通報。駆け付けた警察官に逮捕された。
法廷では、犯行時の状況のほかに当時の家庭の様子も詳らかになった。支配的に振る舞う夫に対し、過剰に尽くす妻。凶器の特殊性から世間の注目を浴びた樽井被告だが、公判で傍聴人らを絶句させたのはむしろこの“歪んだ夫婦関係”の方だった。
法廷で語られた樽井被告の生い立ちや夫婦生活の内情を以下にまとめる。
樽井被告は高校を卒業後、複数のアルバイトを掛け持ちし、生活費を実家に入れながら暮らした。一人暮らしの期間中にも貯金ができていたことから、つましい生活だったようだ。
夫は初めて付き合った異性だった。20代前半で出会い、同棲を経て2012年に結婚した。
当時、夫には200万円を越える借金があった。樽井被告は交際前に貯めていた貯金の大半を夫の借金返済に充てている。夫が店をやりたいと言うと、残りの貯金も開業資金に回した。それでも足りないと分かると、両親の学費貯金を取り崩し、さらに自分でカードローンを組んだ。
樽井被告 「全部で500万程度出しました。夫が好きだったからです」
風俗店での仕事がばれ、次第に束縛されるように
しかし、店は利益が上がらず2カ月で廃業。月7万円の返済義務だけが残った。「2人でなんとかすればいいと思っていました」と樽井被告。ところが、その後、長男が産まれても夫が安定した職に長く就くことはなく、樽井被告は「仕事を見つけて」と言い出せないまま自分で働き口を探した。
樽井被告 「でも赤ちゃんがいてなかなか働けませんでした。家計は常に苦しかった。生活費を稼ぐため、援助交際をしました」
抵抗はあったが、「仕方ない」と割り切った。風俗店でも働いた。何度か夫にばれ、その度にやめさせられた。次第に夫から束縛されるようになり、折に触れて携帯電話をチェックされ、1人で外出中は居場所が分かる写真を送るよう命じられた。
また時には子どもの前で土下座をさせられ、息ができなくなるほど蹴りあげられた。「外に出られない顔にするぞ」「指を切る」。そんな言葉を浴びせられたこともあったという。
徐々に樽井被告は「私だけが悪いのかな」と不満を抱くようになった。と同時に夫に恐怖を感じるようになり、夫と視線を合わせて会話することすらできなくなっていた。