妊娠を相談したら「お前が決めろ」
離婚も考えたが、夫は援助交際や風俗勤めを不貞行為と責め、「どうしても別れるなら慰謝料を払ってもらう。それと子どもは渡さない」と言った。証人尋問で夫はこの発言について「ハッパを掛けるつもりだったが、言葉足らずだった」と説明。当時、樽井被告がその真意を知ることはなかった。
樽井被告は2人の子どもを産んだ後、3回の人工妊娠中絶を経験している。公判では、その時の夫の態度も事件の背景にあると指摘された。樽井被告の供述によると、妊娠を夫に相談したが、「お前が決めろ」と言われた。本当は「産んでいいよ」と言ってほしかったのだそうだ。
樽井被告 「悲しいのと失望しました。恨みにも思いました」
事件直前の樽井被告はホテル清掃などの仕事をし、手取りは十数万を得ていた。しかし昨年春に新型コロナウイルス禍で緊急事態宣言が出ると出勤できなくなった。収入を得るため再び風俗店で働き、再び夫に見つかった。
「好きでやっている訳じゃない。これがないと生活できない」。そう思ったが、夫に強く言うことはできなかった。
不満や失望が殺意に…気付けばボーガンのことを調べていた
夫の側も求職に努め、実際に働いていた時期もあったらしい。だが、就職直後に新型コロナ禍の影響で失業したり、けがをしたりする不運に見舞われたという。その頃には妻の中で不満や失望が殺意に変わりつつあった。
樽井被告の説明によると、家事、子育て、家計管理は全て1人で担った。片や夫は働かず家でゲームをしている。そんな時、宝塚のボーガン殺傷事件をニュースで知った。気付けば樽井被告は通販サイトやYouTubeでボーガンのことを調べていた。
夫婦そろって「また一緒に暮らしたい」と公言
事件前の生活環境を知り、被告に同情的な視線を向ける裁判員もいた。ある女性裁判員は「あなたは十分頑張ったと思いますよ」と声をかけた。それでも樽井被告は夫をかばい、夫からの暴力はDVではないと言い張った。
樽井被告 「私も至らない点があるし、夫に暴力をふるわせてしまった」
樽井被告 「私が怒らせるようなことをしなければ、そんなことをする人ではありません。(暴力は)犯行の直接の動機ではないです」
本人が言う一番の動機は、経済的な不安や束縛への不満だ。自身の思いを証言席で泣きながら告白したかと思うと、突然あっけらかんとした語り口に変わる。裁判員たちもそんな樽井被告の思考を計りかねているようだった。
夫婦がそろって「また一緒に暮らしたい」と公言したことも、法廷を困惑させた。
事件後、2人は法的には離婚したが、夫は「今でも夫のつもり。恨み、怒りは一切ない」と言った。いわく、逮捕後、面会を20回重ね、再び目を見て会話できる関係に戻ったのだという。