「○歳以上の童貞は気持ち悪い」から「○歳での喪失が理想」を経て「○歳以上の童貞でもあせるな」へ……。男性の“童貞”をめぐる言説は時代とともに変化してきた。はたして、このような変化はなぜ起こり、また、そうした言説はどのように男性自身の考え・行動に影響を与えてきたのだろうか。
社会学者の澁谷知美氏による著書『日本の童貞』(河出書房新社)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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「規格外童貞には精神的欠陥あり」
言説の流れを見ると「○歳以上の童貞は気持ち悪い」という声は、「その年になってまで童貞というのは、精神面に問題があるのではないか」という疑惑の声につながっている。
具体的年齢をあげて童貞を病理化する発言は、1974年に女子大学生が「23~24にもなって童貞というのは、ヘンに潔癖なのか、自信喪失なのか、マザーコンプレックスがあるのか、いずれにしてもマッピラよ」(*1)と述べるのが最初だ。ほかには、「22かな、23かな、それくらい以上の年齢で童貞だったら、なにか気持ちが悪い感じ。性的異常者みたいで」(女子大学生)(*2)などの評価がある。
*1 『プレイボーイ』童貞は男の勲章か!? 女のバージンとはまた違う“純潔”の意味を考える(1974/10/1)
*2 『GORO』ギャルたちは童貞クンとの遭遇を望んではいない! 童貞卒業は男の人生の重要な転換点だ(1980/1/24)
そのほか、ある年齢以上の童貞は「ネガティブな自己イメージと高い要求、そして拒絶されることへの恐れ」を持っており、「他人との距離がうまくとれな」いとされる(*3)。そして、女性から「あまり初体験が遅いと〔略〕よっぽど性格的に問題があるのかな〔略〕と思う」(*4)と評価されるにいたる。
*3 『コスモポリタン』最新US版コスモ・エクスプレス 30歳目前の童貞男が急増中!?(1989/7)
*4 『メンズノンノ』M-Serious「童貞クン、20歳の主張」(1990/7)
また、精神的欠陥のみならず、一定年齢以上で童貞でいると肉体的にも問題が生じるとする説がある。「潜在的なインポ予備軍」になるというものだ。
1987年の『checkmate』によれば、童貞喪失が遅れた男性のばあい、どうしても初体験にのぞむさいの緊張が大きくなり、勃起不十分におちいりやすい。また、初体験に失敗したときのショックも年齢が高ければ高いほど大きくなる。ゆえに、心の傷になりやすい。
これに加えて、童貞喪失が遅れるような男性というのは「性格的にマザコンだったり、性的知識が乏しかったりしてるタイプが多い」ので、「慢性的な若年性弱ボッキやインポ」になるのだという(*5)。
*5 『checkmate』童貞ソーシツ適齢期って?(1987/2)
このように、ある年齢以上で童貞でいると、気持ち悪いと評されるのみならず、精神的欠陥を指摘され、インポの心配までされることになる。記事を読んだ童貞読者が不安にかられたことは想像にかたくない。