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童貞喪失年齢の画一化 

 以上の「童貞喪失年齢の規範化」言説について、言説が登場した時期、話し手、言説の内容ごとにまとめると、下の表のようになる。こまかい例外はあるものの、大きなトレンドは押さえられていると思う。 

「童貞喪失年齢の規範化」言説の種類

 このトレンドを図式的にしめせば、1970年代以降の女性の「気持ち悪い」という非難をかわすべく、80年代から雑誌の地の文が「喪失理想年齢」をしめして(あやふやな医学的根拠とともに)童貞読者をせかし、90年代にはいって、そうしたせかしを鎮静化するようにして「あせるな」言説がさまざまな人の口からでてきたというストーリーが描けるだろう。 

 規範が内面化されたか否かを、人びとの行動に見いだすことができると仮定すれば、この「童貞喪失年齢規範」は、若い世代ほど浸透しているといえる。 

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 下のグラフはNHKによる「日本人の性行動・性意識調査」(1999年実施)のデータである。これを見ると、60代の童貞喪失年齢のカーブはゆるやかである。これは、いろいろな年齢でまんべんなく童貞喪失がおこなわれていることを意味している。 

NHK「日本人の性行動・性意識調査」(1999年実施)における童貞喪失年齢/NHK「日本人の性」プロジェクト編『データブック NHK日本人の性行動・性意識』224頁の表をもとに作成。「経験あり」のうち初体験年齢を明答している者を100%として再計算した

 それにたいして、30~50代のカーブは鋭い。18~20歳の間に、全体の約50~60%が童貞喪失をしている。 

 20代のカーブに鋭さはないものの、年齢が前だおしになって、17~19歳の間に、全体の約56%が集中している。 

 このまとまり具合は、ちょっと不気味ですらある。「童貞喪失年齢の画一化」とでも呼ぶべき事態がおこっている可能性がある。 

 1975年以降の「気持ち悪い」言説や81年以降の「○歳での喪失が理想」言説の蓄積が、この画一化を呼びよせたのか、画一化がおこったから、規格外童貞にたいする「気持ち悪さ」が生じたり、喪失理想年齢なるものが提唱されるようになったのか、どちらがニワトリでどちらがタマゴか、それを確認することはとても難しい。それどころか、言説と画一化に関連性があるのかどうかすら、検証することは困難だ。 

 しかし、たった3年の間に約4割もの人間が喪失をするからには、中には何人か「○歳までに捨てなくては」とあせって童貞喪失にのぞんだ者もいたと思う。 

 だとすれば、ずいぶん窮屈な話だ。10歳未満から30歳まで、いろいろな時期に童貞を捨てていた60代が、うらやましくはないだろうか。 

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