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「あせるな」言説 

 もっとも、わずかばかりの救いもある。おもに1990年の『メンズノンノ』のハタチの童貞特集(*6)と、94年の『VIEWS』の30歳の童貞特集(*7)に見られる「○歳以上で童貞だからといってあせる必要はない」「べつにヘンではない」という説である。 

*6 *4同
*7 『VIEWS』オンナも大変、オトコも大変(2) 女性が元気すぎて「童貞」が増えている!? 日米30歳男性を襲う「シャイマン・シンドローム」(1994/4/13)

 女子大学生は「18歳ぐらいになれば現実を見られるような年頃なんだから『やるのがカッコイイ』とか、セックスしたいとかばっかり考えてる人、青いよ。私の周囲だと、別に焦ってないよ、童貞でも」(*8)といらだちをまじえつつ、あせる必要はないといい、2001年になると雑誌の地の文でも「Hに対する思いは10人10通り。『俺、まだじゃん…』の心配はまったくナイぞ!!」(*9)との言葉がみられる。 

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*8 *4同
*9 『JUNON 臨時増刊号』それでいいのか、キミのSEX? ボクたちの脱童貞失敗談 チェリーボーイたちの哀しき暴走ストーリー。あぁ、穴があったらちゃんと入りたい!(2001/2/1)

 専門家たちも高年齢童貞にたいして肯定的だ。性人類学者のキム・ミョンガンは「セックスしなきゃいけないなんて大きなお世話。そのまま童貞のおじいちゃんになればいいじゃないですか」(*10)といい、心理学者の富田隆は「性にはいろいろな形があっていいんです。30歳で童貞だからって、慌てる必要はないと思います」(*11)と、高年齢童貞について肯定的な態度をとる。また、高年齢処女として有名な作家の姫野カオルコも「『あなただけではありません』というのが私からのメッセージ〔略〕多くの人間はまだ保守的で不器用なのです。胸を張って下さい」(*12)とエールを送っている。

*10・*11・*12 *7同

 おもしろいのは奈良林祥である。「男性がシャイでなぜいけないんですか?」と「語気荒く反問」したのち、このようにいう。 

  童貞だからって悩む必要はないんです。だいたい女性とイチャイチャしたから性的に成熟するなんてことはありえない。未成熟だから、露出狂とマゾヒズムが融合して人前でベタベタするんです。もう病気ですね。逆にシャイな男の方がずっとまともで、可愛気がありますよ(*13)。 

*13 *7同

©iStock.com

 女性とイチャイチャしたからといって性的に成熟するなんてことはありえない、という意見はけだし真っ当である。だが、奈良林は1965年の時点では、「童貞の男性は、生物学的にいうとパーソナリティー(人格)が未成熟の状態にあります」(*14)といっていた。「シャイな男の方がずっとまとも」とは矛盾する。 

*14 『平凡パンチ』格差があり過ぎる20代のSEX LIFE 童貞率上昇、処女低下の傾向を考える(1965/11/8)

 専門家の考えも時代の流れに影響されることをしめす一例であろう。それとも、奈良林のモノの見方が「成熟」したということだろうか。