入団から3年、28歳で首位打者に輝くと、翌82年には戦後最年少の三冠王を獲得した落合博満氏。87年には中日に移籍し、史上初の両リーグでの打点王・本塁打王を成し遂げる。FAで巨人に移籍すると、“メークドラマ”の優勝に貢献した。

 現役引退後は、監督として日本一を体験。選手としても監督としても華々しい成績を残した数少ない野球人といえるだろう。ここでは同氏の監督時代のエピソードを『戦士の食卓』(岩波書店)より抜粋。落合監督誕生の瞬間、そして常勝球団をつくりあげた“食事への配慮”を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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食事は今日を反省して明日への気持ちを整える行為

落合博満 この原稿は、残暑が厳しかった8月下旬に執筆した。その内容を打ち合わせた際の食事では、旬のものが並んだ。

 “旬”を辞書で引くと、「魚介、蔬菜(そさい/野菜)、果物などがよくとれて味の最もよい時」とある。また、旬という文字には「10日」という意味があり、だから1か月を10日ごとに分け、上旬、中旬、下旬と呼ぶのだ。そして、食材における旬とは、素材が最も美味い時期のほかに、収穫量がピークとなる時期、季節を先取りする初物や“はしり”という意味で使われることもあるという。

 私が主にいただいたのは、ちょうど旬に入った松茸である。岩手産が美味い時期ということだったが、2019年の国内産は全体的に小ぶりで高額なようで、中国など外国産で良質なものも出回っているという。私はスタッフの皆さんと5人で、土瓶蒸し、炭火焼き、天ぷら、松茸ご飯にお吸い物と、ちょっと贅沢だが、フルコースにしてもらった。炭火焼きは、傘の部分からガブリといただくのが、風味も感じられてよいとのこと。ただ、歯が悪かったり、高齢の人は、無理せず適度に裂きながらいただくのがいい。

 また、本来は11月あたりから穫れるという初物の金時人参(京人参)は天ぷらで、まさに収穫量がピークのだだちゃ豆は茹でてもらった。「だだちゃ」とは、庄内地方の方言で「お父さん」を指す。献上された庄内藩の殿様が、あまりに美味かったため、「どこのだだちゃが作った豆か」と尋ねたのが由来、あるいは、美味い豆ゆえ家長が最初に食べるのが由来など諸説あるようだが、こうしたうんちくを語り合ったり、調べたりしながらの食事は楽しいものだ。

落合博満氏 ©文藝春秋

 そう、食事、殊に夕食の時間というのは食欲を満たすとともに、会話を楽しみながら、その日に起きたことを省みて、明日への気持ちを整えるという意味もあるのだと思う。

 さて、野球界で“旬”と言えば、レギュラーになって活躍している選手を指すのだろう。そんな選手たちとともに戦っていた監督の時も、彼らの成長や活躍をサポートするという点で食生活を気にかけていた。