その理由の一つは、監督やコーチと一緒に食事をしたくないというものだ。昼間はグラウンドで「ああだ、こうだ」と叱られ、夕食で再び同じことを説教される。そんな毎日が続くと、「飯くらいはゆっくり食べたいよな」という気持ちになるのも理解できる。ならばと、キャンプ中は監督やコーチと選手の食事会場を分けた。
目上の人間と時間を共有したくないのではなく、自慢話や説教をされながら食事をしたくないだけ
とにかく、選手にとって一番大切なのは体であり、その体を健康に保ち、強くしていくのは食事と睡眠だ。私は監督就任時に「練習では泣いてもらいます」と選手に伝えたように、一切の妥協を排除して鍛えに鍛えた。そのためにも、プライベートな時間は干渉せず、自分の野球人生に自分自身で責任を持てるようにしたかった。
そして、私は特別な用事がない限り、キャンプでもペナントレース中の遠征でも、宿舎の宴会場で、できるだけゆっくりと食事を摂った。すると、何か私と話したい選手は、私がいる時間を見計らって宴会場にやって来る。そこで技術に関する対話が始まり、気づいたら夜中になっていたこともある。
私は思った。いまどきの若い子は、目上の人間と時間を共有したくないのではない。つまらない自慢話や説教をされながら、食事をしたくないだけではないか。野球のように技術的、あるいは戦術的な要素を学ぶ世界では、グラウンドで体を動かすだけではなく、頭で理屈を考えたり、試行錯誤する時間も大切だ。もちろん、それに関して指導者や先輩との対話で吸収することもあるわけで、食事の間は肩肘張らずに野球(仕事)の話ができる時間としても活用できる。
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