重度のDV被害者は感情を失う
栗原さんが主宰するステップでは、DVや虐待、ストーカーの加害者を対象にした更生プログラムやカウンセリング、被害者支援を行いながら、さまざまな家庭に関わっている。ステップを頼って来る被害者には、“感情がない”という共通点があるという。
「人間は過酷な環境に身を置くと思考を停止して、苦しみを感じないように防衛本能が働き、次第に喜怒哀楽がなくなっていきます。また、夫に殴られるのが怖くて夫が満足する選択しかしなくなるのも特徴です。たとえば、妻が赤い服を着たときに『なんで夏にそんな暑苦しい色を着るんだ。青を着ろ』といわれたら、青い服しか着なくなる。暴力だけでなく、相手が自分らしく生きる選択を奪うのがDVの本質です」
彼女の元を訪れた相談者のなかには、失禁しても気づかないほど感覚を失ってしまう人もいたそうだ。
「殴られたり罵られたりしているのになぜ一緒にいるんだ、と思う人もいるかもしれませんが、彼らは自分たちの家庭がDV家庭だと気づいていません。加害者は『怒らせる相手が悪い』と思っているし、被害者も『怒らせてしまった自分が悪い』と思い込んでいるので、問題が顕在化しにくい。ただ、加害者の暴力の矛先が子どもに向いたときに夫婦関係の異常性に気がつく被害者は多いですね」
ただし、かなり深刻なDV家庭では、子どもが被害に遭っても逃げ出せないため、第三者の介入が必要だという。
家庭というクローズドな環境で悪化するDV。交際中に相手のモラハラやDVに気づくことはできないのだろうか。
「じつは、交際中はとても尽くしてくれるのもDV加害者の特徴です。でも、結婚した途端、彼らは釣った魚にエサをやらなくなるだけでなく、結婚後に妻に反発されると『俺に従順な女だと思ってたのに!』と怒りを覚えてDVがはじまります。結婚や出産、パートナーと意見が食い違ったときが、DVの引き金になるケースがとても多いです」
DVは結婚や出産は治らない
しかし、人によっては交際中から相手の問題に気づいている被害者もいるという。
「そんな彼女たちに結婚した理由を訊くと『結婚したら治ると思った』と答えます。なかには『子どもが産まれたら変わるはず』と考えて、5人出産した女性もいました。でも実際には、奥さんが子育てに手一杯になってしまい、ケアしてもらいたい夫のDVはさらにひどくなりました」