DVは結婚や出産で治るものではない、と栗原さんは断言する。DVや虐待の根底には、加害者が育ってきた家庭環境が深く関わっているためだ。
「DVの治療には、更生プログラムなどの専門的な知識が必要なんです。とくに男性が加害者の場合は、幼い頃に虐待されていた人がかなり多いので、愛されたり、認められたりした経験がありません。なので、親がそうしていたように暴力や言葉で家族をつなぎとめる方法しか知らないんです。DV加害者にとって結婚は、妻や子どもが自分の所有物になるという認識でしかありません」
何が悪いのかわからない……涙を流すDV加害者
DVは許される行為ではないが「加害者の愛のSOSでもある」と、栗原さんは話す。被害者にとっては恐怖の対象でしかないが、加害者は相手に愛情を抱いているのだ。
「DV加害者は執着心も強く、妻がいなくなると眠れなくなったり、自殺を考えたりする人もいます。それでも『俺を愛してくれ』と言えず、その代わりに相手を責めて批判して相手を自分と同じ意見に変えようとする。一方の被害者は、暴力を振るわれているので愛されていないと感じ、心は離れるばかりですよね。先日相談に来た男性は『妻にモラハラと言われてここに来た。でも、何が悪いのかわからない』と泣いていました」
適切なコミュニケーションがわからないDV加害者は、まず「妻や子どもは所有物ではない」という事実を理解する必要がある、と栗原さん。カウンセリングや更生プログラムを受けて“家族は他人だ”と理解するだけで、加害者の表情はやわらぐという。
「DVをしていた夫が妻と離婚してから、とても仲が良くなったケースもあります。もちろん、離婚後の元夫婦とお子さんにカウンセリングに通ってもらいましたが、夫婦の縁は切れたけど両親としての関係は現在も続いています。毎朝元妻と子が住むマンションに元夫が朝食を作りに行っているそうです。夫は離婚をして家族を“他人”と思えるようになり、やさしくなれたんです」
長年DVの被害に遭っていたその女性は「今がいちばん幸せ」と、栗原さんに語ったという。離婚という形で夫婦の在り方を変えて、関係が改善するケースもあるようだ。