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 そこで働いていた商人の大半が女性だった。北朝鮮では各世帯で1人は、国家が決めた工場や鉱山、役所などに出勤しなければならない。こうした公の仕事には世帯主が就くため、たいてい男性の仕事になる。ただ、公務員の月給は平均51000ウォン程度とされる。北朝鮮の公式レートは1ドル(110円)が108ウォンだが、このレートが国内で適用されるのは高級幹部用の配給品だけ。一般市民は約8千ウォンで取引している。家族4人が1カ月を過ごす生活費は最低でも数10万ウォンが必要とされる。実際、映像のなかで、商人たちは米1キロを4300ウォン、大豆1キロを3500ウォン程度で売っていた。

「ノドンダン(労働党)よりジャンマダン(市場)が必要なのだ」

 男性が公の仕事で稼ぐカネだけではとても生活が立ちゆかない。そこで市民たちは副業に手を出す。一番、身近な副業が市場での商売というわけだ。商人は市場管理所に保証金を払い、場所を確保する。また毎夕、売り上げの一部を、売り場を巡回する市場管理所員に支払う。そのうえで一家が食べていくだけの日銭を稼ぐ。単純に計算して、売り上げから仕入れ値や場所代を除いた稼ぎが最低でも1日2万ウォンくらい必要になる。

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 映像の中で女性の商人が一生懸命、小麦粉や大豆、もち米などの値段を説明していた。1キロが7千ウォンのでんぷんを指さし、「61000ウォンでいいよ」と声をかけている女性商人もいた。市場の入り口には通常、公に定められた価格表が掲げられているが、誰も守らない。市場の中は資本主義が支配している。みな少しでも高く売り、少しでも安く買おうと必死になっている。

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 韓国政府によれば、北朝鮮では政府公認の市場だけで500カ所を数える。その周辺には非公認の市場も多い。市場に向かう路上で自転車などを売る商人もいる。脇に置くのは見本品だけで、取り締まりに遭えば、「人を待っている」と言い逃れる。その他にも、路上に粗末な台を置き、そのうえでタバコや雑貨を売る商人もいる。

 ソウル大学統一平和研究院の金炳魯教授によれば、市場で働く北朝鮮商人は100万人に上り、新しい階層を形成しているという。韓国の北朝鮮経済専門家らの分析によれば、金正日体制末期に生まれ、少なくとも資産が1万ドル(約110万円)以上ある富裕層は数千人以上いるとみられる。彼らは労働者を雇い、建設業や貿易業、運輸業などに進出している。北朝鮮では「我々には2つのダンがある。ノドンダン(労働党)よりジャンマダン(市場)が必要なのだ」という言葉も流行る。そして当然、そのなかには女性も多く含まれている。

【前編を読む 「見られることに快感」「いつもオーダーメードの膝上スーツ…」 金正恩総書記の妹・金与正の恐るべき"政治的能力”】

◆金日成の血を引くファミリーの争いを勝ち抜いた兄妹、金正恩と金与正の正体について、全文は『金正恩と金与正』に掲載されている。

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牧野 愛博

文藝春秋

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