一般人向けのパーソナルトレーニングの登場や、24時間営業のフィットネスジムの事業所数増加。いまや“筋トレ”をすることが当たり前の時代になったといっても過言ではないだろう。しかし、筋トレを行う人の中には誤った方法でのトレーニングに励んでいる人も少なくないという。
そう指摘するのは、菊池雄星投手らプロアスリートのパーソナルトレーナーとして絶大な人気を誇る清水忍氏だ。ここでは同氏の著書『ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。筋トレで陥りがちな“罠”について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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「腹筋1000回」「ベンチプレス150キロ」はエライのか
筋トレ好きには、さりげなくトレーニング量を自慢してくる人が少なくない。みなさんの周りにも「自分、腹筋1000回をルーティンにしてるんで……」とか「フフフ、この前、とうとうベンチプレス150キロをクリアしたんですよ」などと言ってくる人がいるのではないだろうか。
みなさんは、こういった「筋トレ数字自慢」を聞いてどんなリアクションをするだろう。
「せ、1000回? エライなあ、1000回なんて自分にはとても無理だよ」「150キロ! スゲーッ、もう超人レベルじゃん」といったように相手をほめたたえ、尊敬のまなざしを送るだろうか。
私はあまり素直にほめる気にはなれない。
なぜなら、このように「回数」や「キロ数」に囚われていると、もともと何のためにやっていたかの目的を見失ってしまいがちだからだ。
筋力トレーニングの目的は人それぞれだ。競技や試合でのパフォーマンス向上のためにやっている人もいるし、ボディビルやボディメークで理想の筋肉をつけるためにやっている人もいるだろう。また、健康や美容のコンディションを維持・改善するためにやっている人も多い。
ただ、どんな目的で始めたにせよ、「1000回」「150キロ」などの数字に囚われ出すと、だんだん「1000回やること」「150キロ上げること」が目的になっていってしまう。そして、「その人本来の目的」がいつの間にか忘れ去られていってしまうのだ。
しかも、「何回やる」「何キロ上げる」というところにフォーカスを当てていると、多くの人は回数やキロ数を稼ぐためにフォームを崩し、自分にとってラクなフォームでトレーニングを行なうようになっていく。これが非常に問題なのだ。
あるとき、ベンチプレスのバーベルを胸までストンと速く下ろしてしまうスポーツ選手がいたので理由を訊くと、彼は「ゆっくり下ろすと30回上げられないので」と言った。