観察対象第一号
1966年11月21日——この板金業者で働いている連中は、そろいもそろって大根なみの頭しかない馬鹿だ。あいつらはタバコとビール以上にハイレベルなことは考えもしない。「この通風孔カバーじゃ、ぜったい役に立ちませんって」連中はいう。たとえわたしがこの品の真の目的を話したところで、あいつらの頭では理解できまい。
1966年11月22日——6号室に通風孔カバーをとりつけてみた。いくつかの試作品が失敗したあと、ようやく完璧な品が得られ、客室のひとつをわたし専用の観察実験室に利用できるようになった。屋根裏から妻のドナが見おろしていても、こちらから妻の姿は見えない。妻がいくら通風孔に顔を近づけてもまったく見えなかった。さらに夜になってから部屋の照明を点滅させて確認したが、やはりドナは見えなかった。すばらしい——ようやく、いまなにが起こっているかを悟られないまま客室の利用者を観察する最適な手段が手にはいった……。これで自然な環境下にいる人間を観察できる世界最高水準の実験室をわがものにできるし、そのあとは閉ざされた寝室の扉の奥でなにがおこなわれているのかを——慣習と行動の両側面において——みずから確かめはじめることができるのだ。
1966年11月23日——作業で疲労困憊! もっか〈マナーハウス・モーテル〉の屋根裏の中央に、幅一メートル弱の通路を設営するのに忙しい……。歩いたり這ったりするのを楽にするためにカーペットを敷く予定だ。追加でそれぞれの通風孔近くの通路幅を二倍に拡張し、ふたりが同時に観察できるようにする。そうすれば観察者が低く抑えた声で会話をすることも可能になるだろう。
1966年11月24日——観察実験室がついに完成し、いつでも幅広い層の利用客を受け入れる準備がととのった。わが夢が実現に近づいた。わが覗き趣味や、他人の行動を知りたいという抗しがたい関心がいよいよ満たされ、夢が現実になるのだ。
そしておなじ日に、フースはつづけてこう書いている。
観察対象第一号
【外見】白人男性、35歳ほど。仕事の出張でデンヴァー来訪。身長175センチ、体重80キロ。ホワイトカラー。おそらく大卒者。妻は35歳ほど、身長160センチ、体重58キロ。愛らしいぽっちゃり体形、黒髪、イタリア系、高等教育をうけている。B93-W70-H93。