15人の被験者のとった行動
それから中佐は10号室へもどった。ドアをロックしてチェーンをかけ、ベッドに腰をおろす。つづいて中佐がドライバーをもった手を一回動かしただけで、スーツケースが一気にひらいた。中佐はぎっしり詰めこまれた衣類を漁りはじめ、隙間やポケットをひとつ残らずさぐった。そしていきなり中佐は、このスーツケースには現金などはいっておらず、衣類が詰まっているだけだと悟った。中佐は頭を左右にふった——困惑と不安を如実に示す動作だった。さあ、どうする? こんなふうに考えていたのだろう——南京錠を壊してしまったのだから、もうスーツケースをオフィスへもっていくわけにはいかない。さりとて、この部屋に放置しておくわけにもいかないぞ。
それから数分ばかり客室をうろうろと歩いていたのち、中佐はレインコートを手にとってスーツケースを包み、10号室から外へ出た。中佐が車をスタートさせる音がきこえ、そのあとどこかへ走り去っていった——スーツケースを捨てられる場所をさがしにいったのだろう。
観察スペースにいた覗き魔はノートを手にとって、モーテル利用客の欲深さの実例をまたひとつ記録にとどめた。
【結論】15人のチェックインした利用者を被験者としてテストをおこなった時点で——15人の内訳は、牧師と弁護士がひとりずつ、ビジネスマン数人、労働者ふたり、休暇旅行中のカップルひと組、中流階級の既婚婦人ひとり、および失業中の男性ひとり——スーツケースをあけずにオフィスまで持参してきたのは、全員のうちわずか二名にとどまった。ひとりは医者、もうひとりは中流階級の既婚婦人だ。牧師をはじめとするそれ以外の面々は、全員がスーツケースをあけ、そののちさまざまな方法で処分をこころみた。牧師はスーツケースをバスルームの窓のひとつから押しだして、外の生垣に投げこんだ。医者はといえば、ひとたびはスーツケースをあけようとしたものの、そこで心変わりを起こした。それゆえ15名の被験者のうち、欲に目がくらまなかった者は先のご婦人ただひとりということになる。
覗き魔の弁論は以上。