正直度テスト
妻は夫の言葉に気分を害し、あなたはちゃんとした仕事を見つけ、これからは他人の善意につけこむ真似はやめるべきだ、といった。
このろくでなし男が嘘つきだとわかったいま、わたしは自分の利益を守るために、まず客室のドアノブに錠前カバーをとりつけた。このカバーを設置すると、客が部屋へ帰ってきても鍵穴に鍵を入れられなくなる。カップルがモーテルに帰ってきた。男があわててオフィスに走りこんできて、わたしにこういった。
「おれに小切手が届くまで、ここに泊まっていいといったじゃないか」
わたしは答えた。「延泊についてはあらためて話しあうとして、ひとまずこれまでの宿泊代金をお支払いいただくことに決めました」
男はいった。「だけど、小切手が送られてくるのは知ってるはずだ」
「といわれましても、なんの保証もありませんのでね」わたしはいい、これまでの宿泊代金を全額支払ってもらわなければ所持品をお預かりする、と告げた。
男は憤然と去っていった。わたしは30分待ってから9号室の錠前を交換し、夫婦の所持品の一切合財を物置へ運びこんだ。
【結論】不幸と不満をかかえた何千もの人々が、魂の渇望を満たし、暮らしを改善したいという希望をいだいてコロラド州へやってくる。無一文でコロラドに到着した彼らが見つけるのは絶望だけだ……。社会はわたしたちに嘘と盗みと騙しの手管を教えた。そして欺瞞は、いまや人間の諸要素のうち最重要かつ必要不可欠なものになっている……。人々の観察をはじめて5年になろうかといういま、わたしは社会がこの先どんな方向へむかうのかという点について悲観的になっているし、なにもかも無益だということがわかるにつれ、気分はますます落ちこむばかりだ。
打ち明けるなら、最近わたしは“正直度テスト”なるものを作成した。モーテルの客を、うっかり出来心を起こしやすいシチュエーションに置いてみるのだ。最初の被験者に選んだのは50代なかばのアメリカ陸軍中佐。中佐はフィッツシモンズ陸軍病院に管理職として着任したばかりで、しばらくモーテルの10号室に滞在していた。