都環研は有機フッ素化合物の汚染についても、さまざまな調査を重ねていた。2000年代はじめに多摩川で高濃度のPFOSを検出したほか、2度にわたって汚染源も調べていた。2007年度の1次調査では、以下のような結果が示されている。

電子部品・デバイス製造業D  58000ナノグラム

飛行場排水A           23~83

飛行場排水B         67~410

輸送用機械器具製造業         240

 桁外れに値が高かった「電子部品・デバイス製造業」について調べてみると、半導体を製造する過程で有機フッ素化合物が使われていたことがわかった。当時、各社の半導体製造工場は青梅市に集まっていた。

 東京都水道局による青梅市の水質データをみると、地下水に含まれるPFOSは過去8年のうち7年で「検出下限値未満」だった。つまり、地下水は汚染されていない。

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 ということは、「電子部品・デバイス製造業D」から出た、きわめて高濃度のPFOSを含む排水は下水管を通って下水処理場に送られ、その後多摩川に流されたと考えられる。

 次に、「輸送用機械器具製造業」の計測地点は武蔵村山市か青梅市とみられるが、はっきりとはわからない。カルロス・ゴーン前社長が閉鎖した日産村山工場の可能性もあるが、同社は有機フッ素化合物について「使用していない」と答えている。

排水を流している「飛行場」はどこか

 その回答が正しいとすれば、残るは「飛行場」ということになる。論文に固有名詞は出ていないが、飛行場は都内に3カ所しかない。

 汚染源調査は多摩川の中流域で行われたため、多摩川の河口近くにある羽田空港がまずはずれる。残るは、八丈島などへの離島便やセスナ機の利用が多い調布空港(調布市など)か、在日米軍司令部が置かれる横田基地(福生市など)か。いずれも多摩地区にある。

 論文の概略図には、多摩川の左岸に「A下水処理場」、右岸に「B下水処理場」と記され、二つの下水処理場が川をはさんで向かい合うところは都内に1カ所しかない。このため、A下水処理場は「多摩川上流処理場」(昭島市)で、ここに排水を流している飛行場とは、地理的にみて、米軍横田基地ということになる。

 念のため、都環研に足を運び、論文を書いた主任研究員の西野貴裕にたずねた。

「あの調査で『飛行場』とあるのは、横田基地ですよね」

「うーん、飛行場は飛行場です」

「下水処理場の位置関係から、横田基地以外にありえないと思うのですが」

「いやあ、私どもが言えるのは、飛行場ということだけなので……」

 固有名詞は機微に触れるからか、押し問答を繰り返すばかりだった。

 念のため、「多摩の下水道マップ」(東京都下水道局流域下水道本部/1994年)を別のルートから手に入れ、西野論文にあった概略図と比べてみた。すると、支線ごとにつけられた英字がカタカナに替わっているものの、位置や下水道網の広がり方はピタリと重なる。「飛行場排水」AとBと見られる下水道支線はたしかに、横田基地から出ていた。

東京・多摩地区の下水道幹線図

 その後、西野が有機フッ素化合物汚染について発表したときの資料を見つけた。

〈米軍消火訓練場跡の地下水 PFOS検出〉

 はっきりと、そう書かれていた。

 文中一部敬称略/写真=諸永裕司