いまもスニーカーマニアの間で人気を集め続ける「エア ジョーダン1」。NBAの伝説的プレーヤー、マイケル・ジョーダンのために開発されたバスケットシューズは、なぜストリートで愛され続ける存在となったのか……。
ファッション関連の記事を多数執筆するフリー編集者の小澤匡行の著書『1995年のエア マックス』(中公新書ラクレ)の一部を再編集し、紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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「エア ジョーダン 1」が生まれるまで
最初の発売から30年以上が経った今でも、おそらく最も人気のあるスニーカーの一つである「エア ジョーダン 1」。一人のプレイヤーのためだけに作られたシグネチャーモデルと聞くと、ナイキ側の熱意の強さを感じるが、実際の開発期間は短かった。ナイキがジョーダンと契約を交わしたのは1984年の夏頃。発売は1985年5月予定だったため、プロモーションはシーズン開幕前のプレシーズンから水面下で行うことになった。
契約から開幕までの短い期間、ナイキは急場しのぎとして、既存モデル「エア シップ」に二つの特別カラーを突貫でジョーダンに用意した。黒×赤の組み合わせの一足で開幕前のプレシーズンマッチを終え、開幕してすぐ、白×赤の「エア シップ」をジョーダンに着用させて凌いだのである。
実は「エア ジョーダン 1」は、履き口のウィングマークを除けば、その「エア シップ」からの大きな仕様変更はなく、当時のナイキがしていたオーソドックスなデザインの範疇に収まったシューズだと言える。歴代のモデルで1stだけスウッシュがサイドに施されているのは、その証拠だろう。
履き口にあるウィングマークは、当時のデザイナー、ピーター・ムーアが飛行機の移動中に偶然見かけたパイロットウィング(米陸軍航空軍〔USAAF〕のシャツにつけるピンバッジ)が着想源になっており、これはこれで、アメリカではとても普遍的なモチーフと言える。
しかし、その図らずも王道感を持ち合わせた外観になったことが、「エア ジョーダン 1」が今日までナイキのアイコンであり続けた理由とも言える。
「エア ジョーダン 1」はなぜ発売30年を経て今も人気なのか
定番とは「シンプル」とイコールであると思われがちだが、その実「基準」であることが求められる。もし初作の時点で既に当時のナイキらしさが欠如した斬新奇抜なデザイン、もしくは無味無臭のものだったら、このシューズの価値はどうなっていただろうか? 1980年代、もしくは1990年代のスニーカーブームを経験し、思い出補正がかけられた中年世代はさておき、現代の若者からも「エア ジョーダン 1」が評価されているのは、シンプルにナイキらしいデザインであるからに相違ない。