そうした状況下、消費者側は徐々に白けていく。
特にブーム前夜にデザインの魅力にいち早く気づき、定価もしくはそれに近い値段で購入できた高感度なユーザーたちは、自分たちの履いているシューズが、俗の対象になっているとわかったことで、早々に狂騒の渦から去っていった。彼らは常に「次のおしゃれ」を探し続ける、生来のハンターなのだ。
「エア マックス狩り」
「エア マックス95」人気を背景に、1996年後半くらいから新聞やニュースでプレミア化や強奪といった、ブームをネガティブに扱う報道が徐々に増えていったことを覚えている読者も多いだろう。
特に「エア マックス95」はフェイク品が多く出回ったため、手を焼いたナイキジャパンも同年に初めて偽物の販売業者を告訴。商標法違反容疑で警察による家宅捜索も行われた。「エア マックス狩り」という言葉がメディアを通じて、目立ち始めたのもこの頃だ。
もともとスニーカーに限らず、ヴィンテージジーンズやレッド・ウィングのブーツなどが高価格で販売され、それが暴力団やチーマーの資金源になっていると噂されるなど、若者周辺の風紀や治安は今より悪かった。
「狩られる」「絡まれる」「盗まれる」。
今振り返ると、悲しいかな、「エア マックス95」だけに限らず、そんな危険とファッションアイテムが隣り合わせにあることが当たり前の時代でもあった。
金品となったスニーカー
駅に屯(たむろ)している不良集団の目を避けるため、駅構内のトイレで着替えてから改札を出たり、人混みの中に意図的に埋もれたり。また最寄りではなくとも、安全な駅で降り遠回りして帰路に着くなど、若者側も“宝物”を守るために必死だった。
学校内でも、陸上部やバスケットボール部の部室が荒らされるという事件が頻発。つい少し前まで部室の棚に裸で入れていた、脱ぎ散らかしていたはずのシューズが、ある日から“金品”となってしまったのだ。そのため、部員たちはシューズを巾着袋に入れ、持ち歩いて管理するのが当たり前となった。
また、入り口で靴を脱ぐスタイルの居酒屋でも、酒の力を借りて気が大きくなった若者たちによるスニーカーの窃盗が多数起きたと聞く。その影響か、今や鍵付きの下駄箱を用意する居酒屋がほとんどになっている。
こうした日本の混沌とした状況を前に、一足のスポーツシューズに、スポーツシューズ以上の価値があることを世界は知る。特にアメリカのような「古いものや使い古されたものには価値がない」という概念を持つ国にとって、そのブームは寝耳に水だったと思われる。
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