陛下がご懸念を伝えるために抜かれた「伝家の宝刀」

「天皇陛下が『伝家の宝刀』を抜かれました。宮内庁の西村泰彦長官が6月24日の定例記者会見で新型コロナウイルスについて、天皇陛下が『五輪・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか、ご懸念、ご心配であると拝察する』と述べたのは、間違いなく陛下のご懸念を国民に伝えようとしたものです。

『拝察』という表現により、あくまでも西村長官個人が陛下のお側にお仕えする中で推測したような形式をとっていますが、国民世論の反対の声に一切耳を貸さずに政権維持に利用するため五輪開催に邁進する菅義偉政権に、国民の声に耳を傾けなさいと陛下は諭されているのです。拝察という表現は、憲法第4条で『国政に関する権能を有しない』と定められている天皇が、宮内庁長官に自らの御心(みこころ)を代弁させる際の伝家の宝刀なのです」

今上天皇陛下(皇太子時代) ©️JMPA

「天皇の政治的発言」?

 ある宮内庁関係者はこう語る。五輪開会式の開会宣言は開催国の国家元首が行うとオリンピック憲章第55条3項で定められており、外交儀礼上は日本の国家元首とみなされる天皇が五輪の名誉総裁を務めるのは慣例となっている。

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 前回の1964年東京五輪と72年札幌五輪では昭和天皇が、98年の長野五輪では上皇陛下が名誉総裁を務め、今回は今上天皇が務められる。ご自身が大会の「顔」となる東京五輪で新型コロナの感染爆発が起きることは絶対に避けなければならないとお考えになるのは、至極当然のことだろう。

天皇皇后両陛下(2021年2月)(宮内庁提供)

「前の安倍晋三政権は東京五輪招致のためIOC(国際オリンピック委員会)総会に高円宮妃久子さまを担ぎ出しましたが、当時の風岡典之宮内庁長官は2013年9月2日、久子さまのIOC総会ご出席について『天皇・皇后両陛下もご案じになっているのではないかと拝察している』と述べています。これも上皇・上皇后両陛下の御心を代弁されたものです。皇族を政治利用した安倍政権に一言モノ申されたわけです。

高円宮妃久子さま ©JMPA

 憲法学者からは当時、『天皇の政治的発言だ』といった批判の声も上がりましたが、政治的発言などではなく、国民統合の象徴として国民に発せられたメッセージなのです。今回、菅首相は西村長官の発言について『(長官)本人の見解を述べたと理解している』などと木で鼻をくくったような発言をしていますが、五輪招致時も官房長官として政権の中枢にいただけに、陛下の憤りは十分に伝わっているはずです」(同前)