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「呪い」をテーマにした作品が生まれるまで

──『犬夜叉』や「人魚シリーズ」もダークな側面があります。『MAO』は設定やキャラクターは『犬夜叉』に似ている部分もあるように感じますが、なぜ「呪い」をテーマに描かれたのですか。

 前作の『境界のRINNE』が学園コメディーだったので、あえてシリアスな方向に絞ったということでしょうか。

『MAO』のテーマは呪い

森脇 最初は、安倍晴明のライバルの蘆屋道満(あしやどうまん)に興味があるということで、彼をテーマにしたストーリーも考えていたそうです。でも、昔読んだ中島らもさんの『ガダラの豚』というアフリカ民族の呪術をテーマにした小説が面白かったという話から、「閉鎖された社会と呪術」で盛り上がり、「呪い」をテーマに構想が固まっていきました。

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──生と死を真っ向からとりあげた「人魚シリーズ」も、かなりシリアスな内容でした。『うる星やつら』で、コメディーアクションに親しんでいた読者には衝撃でしたが、結果として「るーみっく・わーるど」がさらに広がったように思います。

森脇 高橋先生の作品は毎回新しいファンが生まれています。同年代の男性ファンを獲得した『うる星やつら』の後の『らんま1/2』では、小中学生など若いファンに向けた作品を描かれました。「人魚シリーズ」は今でも人気作品のひとつですが、先生のなかには、常に新しい読者を楽しませたいという気持ちがあるんだと思います。

森脇さん愛用の、『らんま1/2』のほぼ日手帳

少年漫画家に大切な要素は「中2病」の心

──せっかく獲得したファンにウケないかもしれない作品を描くことは怖くないのでしょうか。

森脇 「自分が中高生の時に漫画にたくさん楽しみや喜びをもらったので、中高生が楽しめる作品を描き続けたい」という思いが高橋先生の中に強くあります。よく「私は永遠の“中2病”なんです」と冗談交じりで言っていますが、少年漫画家に大切な要素って、実はこの「中2病」の心なんです。夢のある話を描けるかどうかは少年誌漫画の大事な要素で、先生がそれをずっと持ち続けていられるのは、ある意味「永遠の“中2病”」だからという部分があるような気がします。

 コロナ前に『犬夜叉』の声優さんたちと宮古島に旅行に行った時、学校の隣に使われていない焼却炉を見つけたことがありました。

 

 僕らは「古くて汚い焼却炉」としか思わなかったんですが、先生はその焼却炉に興味を持ち、「どんな構造になっているんだろう」「どんなドラマがあったんだろう」と妄想して「もしかしたらこの焼却炉でこういう小学生の二人が……」と、1本短編が描けるような「ストーリー」を語り出したんです。同じ体験をしているのに、先生はそこにドラマ性を感じてひとつの面白いエピソードを生み出せるんだ、と衝撃でした。そういう部分をお持ちになっているということが、先生のおっしゃる「永遠の“中2病”」ということなんだろうなと思います。

 少年誌はウソをついてなんぼと言ったら語弊がありますが、いかに面白いウソを描けるかが大事なので、先生としてはネタがあればそれをふくらませて面白くしようということでやってこられたのではないかと思います。